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岸田総理も懸念、原油価格の高騰は止められるのか。少し難しいかも

久保田博幸金融アナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 18日に東京原油市場では、取引の中心となる来年3月ものの先物価格が一時、5万7000円を超え、先週末の終値より800円以上値上がりして年初来の高値を更新し、2018年10月以来、3年ぶりの高値水準が続いている(18日付NHK)

 岸田総理は18日、原油価格の高騰を巡り松野官房長官に対し、今後の原油市場の動向や国民生活への影響の注視、主要な産油国への増産の働き掛け、影響を受ける関係業界への必要な対応の機動的実施の3点について、経済産業大臣ら関係4大臣と連携して対応するよう指示した(18日付テレ朝)。

 ここにきての原油価格の上昇の要因としては、景気回復に伴うエネルギー需要の拡大があった。中国では製造業の回復に伴い、電力消費に対する石炭の供給不足で、各地で停電が続いていた。インドでも経済活動の再開により、産業界向けの電力需要が急増。石炭火力発電所が主力のため、石炭需要が拡大していた。

 欧州は石油や石炭などを用いる従来型の化石燃料による発電に替えて、再生可能エネルギーによる発電を推進してきた。水力や風力、太陽光といった再生可能エネルギーの発電量は天候に左右されるが、今年の欧州は天候に恵まれず、それが再生可能エネルギーによる発電の障害になっていた。

 残された選択肢として温室効果ガスの排出が少ない天然ガスがあり、中国も欧米に倣い気候変動対策を強化する中で、天然ガスの調達を増やすなどしていることで天然ガスの価格が一時、急騰した。

 石炭な天然ガスの需要拡大によって、原油価格にも影響が拡がった。これに対しOPECプラスでは増産拡大など価格調整の動きをみせなかったこともあり、原油価格が上昇した。  

 世界的な原油価格のベンチマークともいえるWTI先物は2018年につけた高値を抜いて、2014年の水準に達してしている。

 WTI先物価格のチャートと呼ばれるグラフからみて、次の節目は100ドル近辺となる。つまり、80ドル近くにあった節目を抜けてきたことで、このまま100ドルに向けて上昇してくる可能性がある。途中の上げ下げはあろうが、トレンドとしてはまだ上昇が続くとみて良いかと思われる。

 日本では緊急事態宣言は解除され、行楽シーズンでもあり、今後はガソリン需要も復活すると予想される。また、寒さも次第に強まることで灯油などへの需要も増えてこよう。そのなかにあっての原油価格の上昇は、企業だけでなく家計にも影響を与えることが予想される。

 原油の輸入大国でもある日本から産油国に増産の働き掛けを行うとしても、OPECなどが一枚岩ではないため、それにも限界があろう。シェールを抱える米国や、天然ガスの供給国でもあるロシア、さらに中東諸国そのものの思惑も絡み、増産などで価格を調整することは至難の業となるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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