Yahoo!ニュース

米国の1兆ドル規模のインフラ投資法案の行方

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 米上院は10日、超党派による1兆ドル規模のインフラ投資法案を賛成69、反対30の賛成多数で可決した。与党民主党に加え、野党共和党からも19人が賛成に回った。今後、法案は下院で審議される(10日付ロイター)。

 バイデン政権は2021年3月31日に米国雇用計画とこれを補完するメイド・イン・アメリカ税制を発表していたが、今回のインフラ投資法案はその一環となる。インフラ投資先としては、道路や橋に1100億ドル、電力網に730億ドル、鉄道に660億ドル、高速インターネットに650億ドルなど。

 米国の橋の4割は建造から50年以上たち、約7.5%は構造的な欠陥の可能性を指摘されている。これは日本でも同様で、特に前回の1964年の東京オリンピックに向けてのインフラ整備が進み、1972年の札幌オリンピックあたりでの日本列島改造によっても道路や新幹線など整備されており、それから50年程度が経過している。

 米国でも新規というよりもメンテナンスとしてのインフラ整備は必要な時期に来ているとみられる。しかし、問題は財源となる。今回、増税を封印したため、議会予算局(CBO)はこの法案で財政赤字が10年間に約2560億ドル拡大する恐れを指摘した。

 これに対して、今回の超党派法案は2000億ドル相当の新型コロナウイルス対策の未使用財源などを財源に見込んでいるようである。日本もそうであるがコロナ対策としてかなり大きく予算を取っていたことで、未使用分を生かそうとするものではあるが、これでは巨額の財政赤字はそのまま維持されることにもなる。

 9月に本格化する下院での審議はこの財源の問題も絡んで見通しにくい。8月から復活した政府債務上限の引き上げ、凍結問題も絡んでこよう。

 10日の米国市場では今回の1兆ドル規模のインフラ投資法案が上院で可決されたことを好感した。成立に向けて一歩前進と捉えたとみられる。しかし、下院での可決にはハードルは高そうであり、財源次第では米債にも影響を与えかねない。もし下院でも可決され成立した場合、このインフラ投資がさらなる物価上昇を促す可能性も意識しておく必要もある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

牛さん熊さんの本日の債券

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月20回程度(不定期)

「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

久保田博幸の最近の記事