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米長期金利が反転上昇中、日本の長期金利もゼロ%がボトムに

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 8月6日に発表された7月の米雇用統計では、非農業雇用者数が前月比94.3万人増となった。6月の93.8万人に続く伸びとなり、予想の87万人増も上回った。ただし、予想のレンジとしては35万~160万人増と幅広く、100万人を超す予想もあった。失業率は5.4%と、前月の5.9%から低下し、2020年3月以来1年4か月ぶりの低水準となった。

 この雇用統計を受けて、FRBがテーパリングに動きやすくなるとの見方から6日の米債は売られた。10年債利回りは1.30%と前日の1.22%から上昇した。米10年債利回りが1.30%台で引けたのは7月15日以来。

 FRBのクラリダ副議長は4日の講演で、米経済は回復期から拡大期に入ったと指摘し、米経済が金融当局の予想通りに推移した場合、当局は債券購入のテーパリングについて年内に発表し、2023年には利上げを開始するとの見通しを示した。

 7月の米雇用統計の内容は、米経済が金融当局の予想通りに推移していると認識されたとみられる。

 米10年債利回りは4日のクラリダ副議長の発言をきっかけにやや動揺を示していた。

 4日に発表されたADP全米雇用リポートで、非農業雇用者数が予想を大幅に下回ったことを受け、米10年債利回りは一時1.12%まで低下した。前日の米10年債利回りは1.18%であったことで、0.06%もの低下であった。雇用統計ではなくADP全米雇用リポートでこれだけの反応を示すことは考えづらく、仕掛け的な動きであった可能性がある。つまり、買い方が仕掛けてきたと言えよう。米10年債利回りは1.2%が節目ともみられ、そこを大きく割り込ませて、ショートカバーを誘おうとしたのではなかろうか。実際にショートカバーも巻き込まれたような動きとなった。

 しかし、ここから米10年債利回りは急反転してきたのである。この日発表された週間の米新規失業保険申請件数は2週連続で減少となり、労働市場の改善が続いているとの見方から急反転したとの見方もあった。しかし、新規失業保険申請件数だけでここまでの反転は考えづらい。それよりも、この日のクラリダ副議長の発言がきっかと見て良いと思われる。再びFRBのテーパリングと利上げが米国債券市場で意識された。この日の米10年債利回りは1.12%から1.22%と利回りが急上昇したのである。

 1日でこのように大きな動きをみせたときには、相場の方向性が変わるきっかけとなることも多い。実際に米10年債利回りは6日の米雇用統計も受けて1.30%に上昇した。4日の動きからみて、この米雇用統計で流れが変わったというよりも、4日に地合がすでに変化しており、その変化した流れが加速された格好ではなかったろうか。9日の米10年債利回りは1.32%に上昇した。

 これを受けてほっとした市場参加者や中銀関係者がいたのではなかろうか。日本の10年債利回りは米長期金利の低下も手伝って4日にゼロ%に低下していた。ここからさら米長期金利が低下するようだと、日本の10年債利回りのマイナス化の可能性もあった。これはできれば避けたいというのが日本の債券市場参加者、そして日銀関係者の本音ではなかったろうか。

 この日本の10年債利回りのゼロ%も意識された可能性もないとはいえないが、このタイミングでいったん米10年債利回りは反転上昇してきた。FRBの年内のテーパリング開始の可能性も出ており、ここからはさすがに米10年債利回りが大きく低下することは考えづらいと思うのだが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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