米労働省が15日に発表した5月の卸売物価指数は前年同月比で6.6%上昇し、2010年11月以来10年6カ月ぶりの大きな伸びとなった。1年前の2020年5月は新型コロナウイルスの流行による経済活動の停滞で物価が下がったため、その比較で伸びが大きくなった。前年同月比は4月から0.4ポイント伸びた(15日付日経新聞)。

 製品が1.5%上昇し全体を押し上げた。製品のうち、食品が2.6%、エネルギーが2.2%それぞれ上昇したほか、食品とエネルギーを除いたコアも1.1%と大きく上昇した。

 これが一時的なものかどうかは見方は分かれている。いや、一時的に大きくなったことは誰もが認めるところであろうが、6月以降も比較的高い水準で推移するとの見方と、それほど高い水準ではなく、むしろ物価の上昇幅は大きく縮小するとの見方に分かれている。

 FRBは物価上昇は一時的との認識を前面に出してはいるものの、それなりにテーパリングの可能性もFOMC参加者が示すなど、物価の上昇基調を嫌ってというよりは、正常化を睨んだ動きとなっていた。ただし、バーナンキショックとかテーパータントラムと呼ばれた市場への影響を極力抑えようと気を使っているようにも思われる。

 16日のFOMC後の会見でパウエル議長は、国債などを買い入れる量的緩和の縮小開始に関し、会合で経済情勢の進捗を議論したと説明。「今後の会合の中で(目標に向けた)進展が続くと参加者は期待している」とし、さらに経済データを確認したうえで具体的な議論に入る考えを示した。決定前に市場と対話を重ねる方針を訴えた(17日付日経新聞電子版)。

 2013年5月にFRBの当時のバーナンキ議長がテーパリングを示唆したことにより、金融市場に予想以上の動揺が起きてしまった。これはバーナンキショックとかテーパータントラムと呼ばれた。パウエル議長は、決定前に市場と対話を重ねる方針を訴えが、これの背景には、できればパウエルショックとかテーパータントラムの再来は避けたい意向があったとみられる。

 しかし、市場では4月、5月の物価の大きな上昇をみて、市場でもFRBのテーパリングはありうるのではとの見方となりつつあった。米雇用統計で非農業雇用者数が予想を下回るなどしているものの、雇用環境がそれほど悪化しているわけではない。

 このため、市場に正式にテーパリングを示唆するタイミングを見計らっており、それには毎年8月末にジャクソンホールで行われる会議で行われるのではとの認識が強まっている。

 なぜジャクソンホールなのか。

 米国ワイオミング州ジャクソンホールで開催されるカンザスシティ連銀主催のシンポジウムは市場参加者にとり大きな注目材料となっている。今年は8月26日から28日にかけて対面で開催される予定となっている。

 過去の歴史をみても、カンザスシティ連銀主催のシンポジウムでは主に金融政策に関わる興味深い出来事が多かった。このシンポジウムは、ある程度マスコミ等から遮断されての意見交換の場もあるとみられている。これには著名学者などとともに、各国の中央銀行首脳が多数出席することで、金融関係者によるダボス会議のようなものとなっている

 ロシア危機とヘッジファンド危機に見舞われた1998年に、当時のグリーンスパンFRB議長がこのカンザスシティ連銀主催のシンポジウムの合間に FRB理事や地区連銀総裁とひそかに接触し、その後の利下げの流れをつくったとされる。

 1999年には日銀の山口副総裁(当時)と、バーナンキ・プリンストン大学教授(当時)が、日本のバブルに対する日銀の金融政策の評価をめぐり、論争を行ったことでも知られる。

 さらに2010年8月27日にはバーナンキ議長(当時)がQE2を示唆する講演をジャクソンホールで行った。このシンポジウムに出席していた白川日銀総裁(当時)は予定を1日早めて急遽帰国し、8月30日の9時から臨時の金融政策決定会合を開催し、新型オペの拡充策を決定している。

 ジャクソンホールでの発言が今後の金融政策の方向性を示唆することがあるのに対し、ここでの発言があまりに注目されるためもあって、本来なら出席してしかるべき人が今後の金融政策の方向性の言質を取られないようにするためなのか、出席しないことも多いとか。

 2013年5月22日にバーナンキ議長(当時)の会見でテーパリングの意向が明らかとなったことで、この年9月のFOMCでテーパリング開始が決定されるのではないかとの観測が強まっていた。しかし、この年のジャクソンホールにバーナンキ議長は異例とも言える欠席をしたのである。結局、テーパリングの開始を決定したのは9月ではなく12月となった。

 果たして今年はどうなるのか。8月のジャクソンホールで行われるカンザスシティ連銀主催のシンポジウムが注目されている。