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テーパリングを織り込ませつつあるFRB

久保田博幸金融アナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 FRBのパウエル議長は4月28日のFOMC後の記者会見で、まだ資産購入の縮小について話す時期ではないと明言していた。

 しかし、4月30日にダラス連銀のカプラン総裁は、金融市場に過剰なリスクテークの兆候が見られるとして、金融当局が大規模な債券購入の縮小を議論し始めるべき時がきたと述べていた。

 さらに、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁は5月21日、テーパリング(資産購入の縮小)に向けた最善の方策を巡り、FRBは「遅いよりは早め」に討議を開始すべきとの見解を示した。

 25日にサンフランシスコ連銀のデイリー総裁は、FRB当局者らがテーパリングの議論について話し合っているものの、縮小の条件となる最大雇用と物価安定目標の「さらなる著しい進展」は見られていないという考えを示した。

 25日にはFRBのクラリダ副議長が、今後数回のFOMCで債券購入を縮小する適切な時期について議論を始めることができるかもしれないと述べた。

 26日にはクオールズ副議長(銀行監督担当)も、米経済が新型コロナウイルス禍を脱する中で引き続き力強さを示すなら、今後数か月のFOMCで債券購入を縮小する計画の議論を始めることが重要になるとの見解を示した。

 19日に公表された4月27、28日に開催されたFOMC議事要旨では「幾人かの参加者は経済が委員会の目標に向けて急速な進展を続ければ、今後の会合のいずれかに資産購入ペースの調整に関する計画を協議し始めるのが適切になるかもしれないと提案した」と記されていた。

 さすがに4月の物価の上昇などから、テーパリングを検討すべきという意見がFOMCで出されていたようである。

 その後のFOMC関係者のコメントからみて、利上げはさておき、テーパリングについては開始時期を探るような動きになると予想される。

 ただし、過去にテーパリングを示唆して市場が荒れたバーナンキ・ショックがあったことで、パウエル議長による示唆はかなり慎重を期すことが予想される。このため、8月末に行われるジャクソンホールでの経済シンポジウムあたりで、テーパリングの示唆があるのではないかとも予想されている。ジャクソンホールが金融政策の転機となることも過去多かったことで、ここを利用してくる可能性はある。

 いずれにしても経済の正常化を睨み、少なくともテーパリングについては早ければ年内にも開始される可能性はある。それをFRBは市場に織り込ませようと動いているように思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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