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全ての市場が激しい熱狂の中にあるとのドラッケンミラー氏の指摘

久保田博幸金融アナリスト
ドラッケンミラー氏(写真:ロイター/アフロ)

 資産家のスタン・ドラッケンミラー氏は11日のCNBCとのインタビューで、「金融・財政政策がこれほど経済情勢からずれている局面」を歴史上見たことがないと発言。「今の市場ではサルでも金もうけできるだろう」と述べ、「全ての市場が激しい熱狂の中にある」のは疑いないと主張した(12日付ブルームバーグ)。

 やや過激とも言える発言ながら、ドラッケンミラー氏の指摘は真実をついている。金融・財政政策がこれほど経済情勢からずれている局面の背景には、もちろんコロナ禍という特殊要因が絡んでいる。それに対処するには、異次元の金融緩和と強力な財政政策のセットが最も有効と捉えられたためだ。

 しかし、これにより株式市場などは実態経済と乖離して動くこととなり、またワクチン接種などによって経済が正常化に向かっている際に、慎重を期す必要があり、金融・財政政策を維持せざるを得なくなることで、経済情勢からずれてしまうリスクが伴う。

 19日に発表された4月のFOMC議事要旨では、量的緩和の柱である米国債など資産購入の縮小(テーパリング)について「多くの参加者が、経済の急回復が続くなら、今後の会合のどこかで購入ペースを調整する計画を議論することが適切」との認識を示した。

 市場はこれを意外として捉えたようである。しかし、これは当然あるべき姿であり、「今後の会合のどこかで」とか悠長なことを言っている場合ではない。

 異常な緩和策が継続し、実体経済は正常化に向かえば、その乖離において副作用が当然発生する。それは過去の歴史からみるとバブルの形成であったり、物価の急上昇を招くなどしていたはずである。このため、経済の落ち着きというか、回復が見られたならば、柔軟に政策を修正する必要性があろう。

 たしかに日本では頑なな金融政策を取ってしまったが故に緩和方向からの修正は微修正を繰り返すほかない状態が続いている。実体経済と乖離した政策が10年あまりも続いて、何ら副作用は起きていないではないかとの指摘があるかもしれない。それはあくまでそれまで積み上げた信用がかろうじて毀損していないためであり、リスクは内包されていることも確かであろう。

 「今の市場ではサルでも金もうけできるだろう」というドラッケンミラー氏の発言はここにきて怪しくなっている。ハイテク相場を牽引していたテスラ株が1月以降で時価総額約33兆円吹き飛ぶとの報道もあった。買えば儲かるような相場となっていたビットコインの価格は、19日に一時ピーク時の半分にまで落ち込んでいた。

 このビットコインを含め、「全ての市場が激しい熱狂の中にある」ことは確かである。このあたりはFRB関係者も当然わかりきっているはずである。

 それでもマエストロ(巨匠)とも称されたグリーンスパン元FRB議長も1996年の講演で、米国株式の上昇に対し、「根拠なき熱狂が資産価格を不当につり上げている」とリスクを指摘したものの、ITバブル発生を防ぐことはできなかった。 

 今回も同じ事を繰り返す可能性はないとは言えないのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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