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デジタル人民元の普及目的は基軸通貨ドルへの対抗策ではなく、国有銀行の保護とアリペイなどの駆逐か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 中国の大手国有銀行6行が5月5日の上海でのショッピングフェスティバルを前に、静かにデジタル人民元を推進しているとロイターが報じた。

 中国は昨年、蘇州、深セン、成都などの都市でデジタル人民元の実証実験を開始した。中国人民銀行(中央銀行)の李波副総裁ははさらに多くの都市でも行う考えを示した。

 李波副総裁は18日、「われわれがこれまで何度も繰り返し説明した通り、人民元の国際化は自然なプロセスであり、われわれが目指すのはドルやその他国際通貨に取って代わることではない」とし、「市場に選択肢を与え、国際貿易や投資の便宜を図るのが目標だ」と述べた(19日付ブルームバーグ)。

 デジタル人民元普及の目的は基軸通貨ドルへの対策というよりか、実際の目的は国有銀行の保護にあろう。李副総裁は、実験の結果、デジタル人民元の発行・流通メカニズムが既存の金融システムと互換性があり、銀行セクターへの影響を最小限に抑えることができることが分かったと説明していた。

 デジタル人民元については中国人民銀行が発行・流通のすべて担うわけではない。既存の金融システム、つまり、国有銀行を通じて流通や管理を行う。国有銀行を通じて中国人民銀行が発行するかたちとなる。日銀が実証実験をしているデジタル円も同様のスタイルとなるとみられる。

 国有銀行は企業や小売店の顧客にデジタルウォレットをダウンロードするよう呼び掛けている。このデジタルウォレットで、取引はアリババ・グループ傘下のアント・グループやテンセントの決済プラットフォームを経由せずに、デジタル人民元で直接決済できる。

 人民銀行はデジタル人民元について、アリペイやウィーチャット・ペイと競合せず、補完的役割を担うと説明していたが、デジタル人民元によってアリペイやウィーチャット・ペイの支配力を削ぐことを当局が企図しているとの見方が出ている。

 中国の規制当局は、アリババ傘下のアント・グループが築いた巨大なフィンテック帝国を事実上解体しようとしているとも報じられた。昨年11月に中国の規制当局は、アリババ傘下のアント・グループの370億ドル規模の超大型IPOを阻止した。このようにデジタル人民元の普及の目的としては、アリペイなどの駆逐も挙げられよう。

 日本でもデジタル円の実証実験がスタートしたが、その普及のネックのひとつとして既存のデジタル決済業者への影響が挙げられている。デジタル円が普及するとなればスマホ決済などは信用度・安全性・便利さなどから、すべてデジタル円に置き換わる可能性が高いためである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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