中国デジタル人民元を脅威とする米国、しかし、中央銀行デジタル通貨の普及はあまり現実的ではない理由

(写真:ロイター/アフロ)

 中国のデジタル通貨計画が勢いを増していることから、米国では財務省と国務省、国防総省、国家安全保障会議(NSC)の当局者が潜在的影響を理解する取り組みを一段と強めているという。米政府当局者は国際金融システムの現体制への差し迫った挑戦についてはあまり懸念していないものの、デジタル人民元の流通方法や、米国の制裁を回避して使用できるかどうかについて理解したい考え。関係者が匿名を条件に語った(12日付ブルームバーグ)。

 中国は昨年10月にハイテク都市の深センを皮切りにデジタル人民元の大規模な実証実験をスタートさせた。デジタル人民元とは、中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency、CBDC)と呼ばれるものとなり、それ自体が法定通貨となる。中国は電子決済の割合が高い国であるとともに、現金そのものの使用度は比較的低く、デジタル通貨の発行に積極的と言われる。

 デジタル人民元の普及はその利便性だけでなく、中国の国家としての国際的な位置づけも重要なのであろうとの指摘もあり、デジタル人民元は基軸通貨のドルへの対抗策、新興国の取り込みといったことが想定されているとみられる。中国は、中央銀行が発行するデジタル通貨をめぐり国境をまたぐ決済システムの研究を加速するとも報じられた。

 日銀による中央銀行デジタル通貨の実証実験も今月開始された。この日本銀行のCBDCに関して、一般リテールは日本銀行に口座を設けるのではなく、民間金融機関に口座を持って、その口座でCBDCを利用することが想定される。

 個人が日本銀行に口座を持ち、それを日銀が管理運用するというのは現実的ではない。あくまで発行体は日銀ながらも、その管理運用については既存の金融機関が行うことを想定されていよう。

 ただし、日本では民間のデジタル通貨のみならず、CBDCについても現実にはそれほどのニーズはないと思われる。

 これは基軸通貨ドルを持つ米国でも同様であろう。米国の中央銀行であるFRBのパウエル議長は中銀デジタル通貨(CBDC)を「最先端で研究していく」と表明していたが、これはブルームバーグの記事にもあるように中国を意識したものであろう。

 ただし、中国も全土でデジタル人民元を普及させることは考えていないのではないかとの指摘がある。

 「ディエム」などのデジタル通貨は金融の根本から変革させるような潜在力を持つ。しかし、民間企業が発行するデジタル通貨や決済システムなどへの各国政府による危惧は強い。だからといってCBDCならば問題なく普及するかといえば、それはその国の事情によって異なるであろう。現金の流通量が大きく減少したスウェーデンではデジタル通貨導入を進めているとされるが、これに対して日本などは極めて慎重になっている。

 CBDCは匿名性を失わせることで、特に政治家などはこの普及を嫌がるのではないかとも思われる。そのシステムの構築そのものも膨大なものになりかねない。人口がそれほど多くない国では可能かもしれないが、億を超える国民のひとつひとつの決済をすべて管理できるシステムそのものも現実的ではないのではなかろうか。

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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