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日銀は何をしたかったのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:cap10hk/イメージマート)

 日銀は3月19日の金融政策決定会合で、点検を行った結果として、金融政策の修正を行った。公表分のタイトルは「より効果的で持続的な金融緩和について」となった。前回の点検時の2018年7月18日の決定会合時のタイトルは「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」となっていた。

 それぞれの目的は「点検」を行った結果、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和の持続性を強化する措置」(2018年7月18日)、「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」(2021年3月19日)とあるように、「持続性」がテーマとなっていた。

 これは裏を返すと、そろそろいろいろと限界が見えてきたので、「余地」を拡げようとしたものとなる。さらに、これだけ強力で規模の大きな緩和を長期にわたり行ってしまうとその副作用も懸念されることで、そのための対応策でもある。

 これだけ強力で規模の大きな緩和を長期にわたり行っていても、物価目標2%の目標達成は見えてきていない。その点について、公表分と同時に日銀サイトにアップされた「点検」の説明では、「予想物価上昇率の形成メカニズム」が想定外であったとしている。

 予想物価上昇率の引き上げには不確実性があり、時間がかかると見込まれるとしているが、どれだけの時間が掛かり、不確実性に対して、思い切った緩和策で結果が出せなかったのであれば、止めて様子をみるのが本筋ではなかろうか。

 さらに点検では日銀の緩和は効果ありとしていたが、別に2014年の大胆な金融緩和はなくても、米株の上昇はあったことで日本株も戻ったであろうし、欧州リスクの後退で円高修正もスピードは遅くても起きたであろうし、景気そのものも回復基調となっていたことは容易に想像できる。

 今回の点検を受けた修正をあらためてみてみると、最初に、金融仲介機能への影響に配慮しつつ、機動的に長短金利の引き下げを行うため、短期政策金利に連動する貸出促進付利制度を創設するとある。

 そもそも、現在の状況をみて、機動的に長短金利の引き下げを行うことが本当に今、必要とされているのか。今後必要とされるのは出口政策ではないのか。

 「イールドカーブ・コントロールについて、平素は柔軟な運営を行うため、長期金利の変動幅は±0.25%程度であることを明確化する」

 黒田総裁はこれは長期金利レンジの拡大ではなく、「明確化」としている。事前報道では±0.30%程度を示唆していたが、5日に国会で総裁は拡大は考えていないと表明。0.25%というのは0.2%と0.3%のちょうど中間だが、いったい何があったのか。日銀は何をしたかったのかが「明確」ではない気がする。

 ETFの原則で年6兆円としていた購入の目安は削除され、ETFの買い入れ対象はTOPIX連動型のみとし、日経平均株価連動型は外した。

 日経平均株価連動型としてしまうと寄与度の高いファーストステアリングなどへの買いが大きくなるなど弊害も生じて、全銘柄が対象のTOPIX連動型のみとするようである。

 ここで注意したいのが「必要に応じて、買入れを行う」とした点であり、本来、日銀のETFの買入は相場変動を意識したものではないはず。しかし、相場が下げたところで買うとなれば、日銀は相場の急落を抑えるための買入となってしまうし、市場では日銀の買いへの期待、いや依存度をより高めることになってしまうのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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