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米長期金利の次の節目は1.9%近辺

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 2020年3月に米10年債利回りは一時、0.31%まで低下した。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によるリセッション懸念に加え、原油先物価格が急落したことで、リスク回避の動きを強めたためである。

 その後、米10年債利回りは上げ下げし、8月に0.5%あたりまで低下したあと、じりじりと上昇基調に転じた。新型コロナウイルスのワクチン普及による景気回復への期待もあったが、米国株式市場がハイテク株などを主体に切り返してきたことから、リスク回避の反動のような動きとなって、米10年債利回りは反発したのである。

 米10年債利回りは1%あたりが節目となっていたが、2021年に入り、その1%を突破。米大統領選挙でバイデン氏が勝利し、民主党が大統領と上下両院の過半数を握るブルーウエーブが実現。これにより、大型の追加経済対策が実施されるとの観測により、米国の景気回復期待と物価の上昇観測、さらに米国債の増発も意識されての、米10年債利回りの上昇となった。

 米10年債利回りは1.2%が次の節目となっていたが、2月12日に1.21%まで上昇したことで、1.2%の節目を抜けてきた。さらに次の節目は、チャート上は1.6%あたりとなった。

 2月25日に米10年債利回りは1.61%に上昇し、次の節目に到達した。ここでいったん上昇は小休止となった。米10年債利回りは3月2日に1.4%割れとなったあと、再び切り返し、1.6%を前にして足踏み状態となっていた。

 米下院は3月10日に、1.9兆ドル規模の追加経済対策を可決した。12日にバイデン大統領が法案に署名し、成立した。

 これによる個人消費の押し上げを通じて、景気回復を後押しすることになる。そして、バイデン大統領は11日、5月1日までに成人の希望者全員がワクチンを接種できる体制を整えると表明した。ワクチン普及が加速し、経済の正常化が進むとの見方も強まった。

 1.9兆ドル規模の追加経済対策の具体的な財源については、将来の富裕層などへの増税などで賄われるとの見方もあるが、当面は国債増発で賄われることが予想される。これは米国債の需給悪化要因ともなる可能性があるとともに、政府債務の悪化も懸念されるところとなる。

 このタイミングで12日の米10年債利回りが一時1.64%に上昇したのである。チャート上、この1.6%を抜けると、次の節目は2019年12月あたりの水準である1.9%近辺となる。

 米労働省が12日に発表した2月の卸売物価指数は前月比0.5%上昇となった。前年同月比では2.8%上昇し、2018年10月以来、2年4か月ぶりの大幅な伸びとなった。労働市場のスラック(需給の緩み)が大きいことを踏まえると、企業がコスト上昇を消費者に転嫁することは難しいとの見方はある。

 しかし、原油価格の動向など次第では、消費者物価指数も上昇してくる可能性は十分にありうる。それが米長期金利に反映されると1.9%あたりまで上昇する可能性もある。

 このあたりFRBはどのようにみているのか。16日、17日のFOMCの動向にも念の為注意しておきたい。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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