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日銀の点検の目的のひとつは国債市場の機能回復か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:cap10hk/イメージマート)

 日銀の雨宮副総裁は8日に読売新聞のオンラインセミナーで異例とも言うべき講演を行った。その目的には18日、19日の金融政策決定会合での点検の説明があった。

 5日の衆議院の財務金融委員会に呼ばれた黒田日銀総裁が、長期金利の変動幅について「『点検』の中で当然、議論になると思うが、私自身は、変動の幅を大きく拡大することが必要とも適当とも思っていない」と述べた。

 これを受けて債券相場は急反発するなどしており、日銀の点検による長期金利の変動幅の可能性を市場はかなり意識していたことをうかがわせる。

 8日の雨宮副総裁のオンラインセミナー後の質疑応答では、5日の黒田総裁の発言について「(長期金利の変動幅拡大の是非について)点検の中で議論になると前置きした上で、自身の考え方として発言したもの」と指摘した。黒田総裁は個人的にはレンジ拡大には反対のようだが、雨宮副総裁はその必要性をセミナーで説いていた。

 念の為、雨宮副総裁のセミナーは5日の黒田総裁の発言前には告知されており、総裁発言を受けて急遽開催されたものではない。

 8日の雨宮副総裁の講演内容を確認すると、日銀は長期金利が動きやすい環境作りを意識していることがうかがえる。

 雨宮副総裁は講演で、長短金利をきわめて低位で安定的に推移させる効果に必然的に伴う副作用として、イールドカーブ・コントロールは国債市場の機能度に影響を及ぼすことを指摘していた。そして、実際、イールドカーブ・コントロールの導入後、多くの指標が、国債市場の機能度が低下したことを示していると指摘した。

 コロナ禍にあって大量の国債が増発された。日銀は大量の国債を買い入れていることもあり、国債の利回りは低位に保たれている。しかし、パンデミックはいずれ収まる。景気の回復とともに物価も上昇するようなことがあれば、それに応じた金利形成が行わなければならない。それが無理矢理抑えられるとなれば、市場機能がさらに失われてしまう。

 景気や物価の正常化が起きれば日銀が大量の国債買い入れもいずれ縮小しなければならなくなる。そのときに国債市場の機能が失われてしまうと大量に発行される国債が円滑に消化されなくなるリスクも出てくる。

 今回の日銀はそこまで踏まえたものかはわからないが、国債市場の機能を低下させないための措置を講ずることが予想される。そのひとつが長期金利レンジの拡大の示唆となる可能性がある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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