日銀の点検を巡って長期金利が乱高下、日銀総裁発言に過剰反応
ここにきて米国や日本の債券市場が乱高下している。2月25日に米10年債利回りは節目とされた1.6%台に上昇した。いったん目先の達成感も出たのか、押し目買いが入り、26日の米10年債利回りは1.41%に低下した。3月3日に1.4%割れとなっていたが、米10年債利回りは1.48%に上昇した。この際には、ECBが何らかの措置を講じることに懐疑的な見方が台頭したことで、欧州の国債は総じて大きく売られたことが影響していた。
そして、パウエルFRB議長は4日、WSJ紙の公開インタビューに応じ、経済正常化に伴って物価が上昇しても、一時的だろうと静観する姿勢をみせ、米債利回りについては無秩序な動きとも介入が必要とも考えていないと発言した。4日の米債は続落となり、米10年債利回りは1.56%に上昇した。
5日の日本の債券市場では、債券先物は前日比21銭安の150円79銭まで売られ、10年債利回りは0.150%まで上昇した。
ところが、5日の衆議院の財務金融委員会で、日銀の黒田総裁が、長期金利の変動幅について「『点検』の中で当然、議論になると思うが、私自身は、変動の幅を大きく拡大することが必要とも適当とも思っていない」と述べたことで、債券相場の地合が急転し、債券先物は151円88銭まで上昇した。10年債利回りも0.070%に低下したのである。
2月10日にブルームバーグは、日本銀行が3月をめどに結果を公表する金融政策の点検で、マイナス金利の深掘りなど一段の緩和余地の存在を明確化するための対応を検討している。事情に詳しい複数の関係者が語ったと伝えた。
翌11日には時事通信が、日銀が3月に行う金融政策の「点検」で、現在のマイナス金利政策を維持し、必要に応じて一段の利下げも辞さない方針の明確化を検討することが10日、分かったと伝えている。
事情に詳しい複数の関係者が勝手なことを言ったわけではなく、これはメディアを通じて市場に事前に織り込ませる、もしくは市場の反応をみるためのものと思われる。これは別に珍しいことではなく、FRBなどでも同様の手段は講じられている。
ただし、それ以降、やや状況に変化が生じていた。米10年債利回りは1.2%が節目となっていたが12日に1.21%まで上昇したことで、節目を抜けてきたのである。次の節目は、チャート上は1.6%あたりとなる。米長期金利が動意を見せ始め、それが欧州の国債、そして日本の国債の利回りを押し上げてきたのである。
日銀が長期金利のレンジの±0.2%を守るのか、それともレンジの幅を事前報道通りに拡げるのか、市場参加者はそれを試すかのように10年債利回りはわずかではあるが上昇してきていた。4日の30年国債の入札がやや低調となったのも、先行き利回りが上昇するという可能性も意識していた。
そこに8日に日銀のキーパーソンといえる雨宮副総裁がネットでオープンな講演をすると伝わり、市場参加者はその講演で点検の意図を探ろうとしていた矢先に、5日の衆議院の財務金融委員会に呼ばれた総裁が、前原誠司委員(国民民主党・無所属クラブ)の質問に答えるかたちで上記の発言をしたのである。
日銀の点検の意図は現在の異次元緩和をさらに継続させるための柔軟化策であったと思われる。しかし、現在の日銀にあっては方向転換は許されないらしい。このため、あの総裁コメントが出たのか。これ以上の緩和は無理と思われたくなくての点検であるのかもしれないが、そもそも現在の緩和そのものにも無理があろう。