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テスラのような事業会社が投資や投機に手を染めると碌なことがない

久保田博幸金融アナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 時価総額世界一の自動車メーカーとなったテスラはビットコインを15億ドルも購入したと明らかにした。当面の運転資金に必要としない現金の運用先について「多様化し収益を高めるよう投資方針を改めた」と説明したそうだが、その矛先がビットコインであった。テスラの研究開発費に相当する金額を投機につぎ込んで大丈夫なのかと危ぶむ声も出ている。

 事業会社による投資や投機の失敗の歴史は枚挙にいとまがない。同じ自動車メーカーとしては、ゼネラルモーターズの事例がある。GMの前身を創業したデュラントは、ウォール街の大物投機家ともなっていたが、GMを2度も窮地に追い込むことになる。

 日本でも事例がある。これは特定の企業に限ったものではないが、いわゆる財テクブームというものが起きていた。これについて金融広報中央委員会のサイトでは下記のような説明があった。

 「手持ちの資金で高収益を得ようと、バブル経済全盛期に、より有利な金融商品の選択、株式投資、土地・不動産への投資等その内容は多様化した。しかし、バブル崩壊によって多額の不良債権をかかえる結果となった事業者や個人も出た。」

 いわゆる日本のバブルを形成した一因というか、大きな要因が、事業会社などを含む財テクブームであった。

 実は堅実とされる債券市場でも同様の事例が存在した。いわゆるタテホショックである。1987年5月14日に89回債は10年債でありながら、短期金利の代表的な金利でもある公定歩合の2.5%に接近し2.550%をつけた。しかし、ここで債券相場はピークアウトし、債券バブルは崩壊。この債券バブルの崩壊で、金融機関のみならず、事業法人でも大きな損失が発生したのである。1987年9月2日、タテホ化学工業が債券先物で286億円もの損失を出したことが明らかになり、このニュースで債券相場は暴落した。これがタテホショックである。

 今回のテスラによるビットコイン投資はうまくいくのか。ビットコインはその価格の乱高下をみても安定通貨としての利用はできない。流出リスクやマネーロンダリングに利用されるリスクも伴う。北朝鮮が暗号資産を約3億ドル奪ったことが明らかになっている。もしや私には見えていない価値がテスラには見えているのかもしれないが、研究開発費に相当する金額をつぎ込むほどのものなのか。

 ビットコインに限らず、世界の株式市場もやや異常な動きとなっている。新型コロナウイルスの感染拡大が、金融緩和や財政のアクセルをふかす状況となり、それがバブルを生んでいることは確かではなかろうか。バブルのときには事業会社が投資や投機に手を染めるともいえそうであるのだが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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