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10年前に日銀によるETFなどの買入が決められた際の議論

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀は25日、2010年7月から12月までに開いた金融政策決定会合の議事録を公開した。議事要旨が発言者の氏名などの表記はなく、議事の内容をまとめたものに対して、議事録は発言者の氏名を含めて発言内容がほぼ記載されているものである。実際にどのようなやり取りが行われていたのかが、議事録からわかる。

 2010年の9月15日に政府・日銀は、6年半ぶりに円売り・ドル買いの市場介入に踏み切った。8月中旬にはドル円が84円台と15年ぶりの水準まで円高が進んだことで、為替介入は2兆円規模となり、円売りドル買い介入としては過去最大規模となった。

 10月4日、5日の日銀金融政策決定会合では、この円高対策もあり、包括的な金融緩和策を決定した。これは、国債、CP、社債、ETF、J-REITなど多様な金融資産の買入と固定金利方式・共通担保資金供給オペを行うため、臨時の措置として、バランスシート上に基金を創設することを検討することとした。

 これについて議事録では、雨宮理事(当時、現副総裁)が次のように発言をしていた。

 「国債についてはやや長めの金利の方に専ら働きかける手段である。一方、ETFやJ-REITがリスク・プレミアムに専ら働きかける手段であり、社債・CP辺りは両方の性格を持っているという、いわば二つの集合でそれぞれ整理できるかという気がする。」

 さらに、「働きかけるというのが、需給に直接働きかけて潰しに行くことを考えるのか、あるいは海のような大きなマーケットなので、日本銀行が入ることが呼び水になって」との発言もあった。

 当時の買入そのものは小さく、いわば呼び水のような役割をしていたかもしれないが、その後、買入規模は大きくなって、市場参加者に需給に直接働きかけを期待されるような役割となってきているように思われる。

 この際に亀崎委員からは次のような意見が出ていた。

 「J-REIT、ETFについては、効果がみえやすく、先程の呼び水という意味では、インパクトがあるかもしれない。しかし、なかなか効果が出ない時に、マーケットからどこまで際限なく要求が出てくるのか、そうした要求が出てきた時にどう対応するか等も含めて、執行部には検討して頂きたい。」

 結果としてこれから議事録が出される10年以上もETFなどの買入が続き、しかもこれだけ規模が大きくなるとは誰が想像したろうか。

 ETFの買い入れ額は段階的に拡大され、日銀が保有するETFの総額は、取得した時点の価格で、35兆円を超える規模まで膨れ上がっている(25日付NHK)。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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