日銀のイールドカーブ・コントロール導入の背景
日銀の鈴木人司審議委員の12月3日の福島市での挨拶要旨が日銀のサイトにアップされた。今回はこのなかで、イールドカーブ・コントロール導入の背景について指摘しているところをピックアップしたい。ちなみに鈴木人司審議委員は三菱東京UFJ銀行出身である。
金融機関が財務の安定性を維持していくうえでは、超長期金利の動向が重要と鈴木氏は指摘している。
金融機関は、預金や日本銀行のオペ等を用いて資金を調達し、貸出や国債等でその資金を運用している。その際、短期の調達と長期の運用という、調達と運用の期間の差が基本的な収益源となっている。この差は金利変動リスクに該当し、銀行はこのリスクを取ることで、収益を得ている。そして、長期固定金利での貸出の割合は一般的にそれほど大きくないことから、満期の長い国債を保有する動機は強い。
日銀は2016年1月にマイナス金利付き量的・質的緩和政策を決定した。これにより、マイナス金利政策は、国債買入れとの組み合わせによって、イールドカーブ全体にわたって国債金利の一段の低下に大きな効果をもたらしたとしている。
ここで注意すべきはイールドカーブ全体にわたって国債利回りが低下したことである。特にプラスの金利が付いていたより長い期間の利回りが低下し、イールドカーブはフラット化した、つまり、短い期間の金利と長い期間の金利の差が縮小した。
このため、全国銀行協会会長などからマイナス金利政策を牽制するような発言が出た。そこで新たに出てきた政策が、この年の9月の決定会合で導入した長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策であった。
短期金利だけでなく長期金利も誘導しようとするもの、いわゆるイールドカーブ・コントロールであるが、長期金利をゼロ%に抑えつける意味もありながら、鈴木氏が下記のように指摘した目的もあった。
「イールドカーブ・コントロール導入の背景には、イールドカーブの過度なフラット化が、広い意味での金融機能の持続性への不安感をもたらすことや、年金・保険の運用難などを通じて消費者マインドに悪影響を及ぼすことを避ける目的もありました。」
「10年物国債金利はゼロ%程度を維持しつつ、イールドカーブの超長期の部分が緩やかなペースでスティープ化していくことは、金融機関の運用収益の改善に繋がり、金融緩和の長期化と金融システムの安定の両立の観点からも望ましいのではないかと考えています。」
イールドカーブ・コントロール導入の本来の目的は長期金利を抑えつけるというより、イールドカーブの過度なフラット化を避けるというものであった。
長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策の導入後、半年程度かけて超長期金利は上昇したが、足もとでは当時よりもやや低い水準となっているとの鈴木氏の指摘もあった。これからみると超長期ゾーンの利回りには、まだ上昇余地があるようにも思われる。