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鬼滅バブルと1980年代後半の金融バブルを比べてみた

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 「鬼滅の刃」が社会現象化しつつある。すでにバブルと言っても良いかもしれない。そこで今回は鬼滅バブルと1980年代半ばからの金融バブルを比べてみた。

 1985年のプラザ合意では、米国の貿易赤字と財政赤字の双子の赤字問題による対外不均衡を、先進各国は為替相場の調整でこれを是正することとし、ドルを引き下げる方向で合意した。ここから円高が進行し、日銀は政策金利である公定歩合を徐々に引き下げてきた。1987年に公定歩合を2.5%と過去最低水準にまで引き下げた。これが株式市場の上昇の土壌となっていた。

 「週刊少年ジャンプ」の2016年11号から連載された漫画「鬼滅の刃」はじわりじわりと人気化した。しかし、あくまでこれは「少年ジャンプ」の読者層に限られたものとなっていた。しかし、これが人気化の土壌となっていたことは確かだと思われる。

 1987年2月、2年前に民営化したNTT株が株式公開された。1次売り出し価格は119万7000円となっていたが、初日は値がつかず、翌10日に初値160万円という高値で売買がスタート。その後もさらに買い進まれ、公開から2か月で、史上最高値の318万円まで高騰した。これをきっかけにこれまで株に興味のなかった個人にも株式投資が浸透しはじめた。

 「鬼滅の刃」は2019年にアニメスタジオ・ufotableの制作によりテレビアニメ化された。漫画の単行本はアニメ放送前の2019年3月の14巻の時点で累計発行部数450万部を突破していたが、アニメ放送終了直後の同年9月29日の16巻の時点で1200万部を超えてきた。アニメ化により、あらたなファン層を拡げた格好となった。

 1987年10月のブラックマンデーで米国株が急落したことを受け、NTT株は225万円まで暴落した。日経平均も大きく下落したものの、日銀の低金利政策は続き、NTT株をきっかけとした株価の上昇は続いた。しかし、1989年に入ると日銀は公定歩合を数度に渡り引き上げ、完全に金融引締策へと転向した。それでも、NTT株の上場などをきっかけとしたバブルの勢いは年末まで続き、日経平均株価は、その年の大納会の大引けは38915円を付けた。ある意味、株と土地の上昇が社会現象化していた。

 2020年に入ると新型コロナウイルスの感染拡大とそれを防止するための経済活動の自粛は経済そのものを大きく落ち込ませた。その後、経済活動は徐々に再開された。映画館にも自粛の波が押し寄せていたが、その救世主ともなったのが、10月16日に劇場公開された『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』であった。公開からわずか24日で興行収入は204億円に達し、国内歴代トップ5にランクインした。また、10月2日に発売された「鬼滅の刃」22巻は初版で370万部を刷り上げ、これにより累計発行部数は1億部の大台を突破した。これを受けて「鬼滅の刃」が社会現象化した。

 日本の金融バブルは1989年の大納会につけた日経平均の38915円でピークアウトした。しかし、「鬼滅の刃」のバブルはまだ序章にしか過ぎないと思われる。すでに「週刊少年ジャンプ」での「鬼滅の刃」は最終話を迎えた。しかし、アニメとその続編となる映画は、原作の22巻あるなかでの8巻あたりまでに過ぎない。ここから最終話に向けて物語はさらに佳境を迎える。

 金融バブルは崩壊し大きな痛手を日本経済に残したが、鬼滅バブルは崩壊どころか、さらに膨れ上がる可能性がある。これが日本経済にも良い影響を与える可能性も当然あろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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