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債券市場参加者は7月からの国債増発をどう見ていたか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 財務省は9月25日に開催された国債市場特別参加者会合(第90回)議事要旨を公表した。このなかから債券市場参加者が、7月からの国債の大量増発をどのようにみていたかを確認してみたい。

 「7月からの国債増額は3か月を経過したが、市場は日銀買入オペの量と回数の強化によって極めて安定した環境にある。」

 「安倍首相の辞任発表に際しては市場でも多少の変動が認められたものの、菅首相の下でも財政政策と金融政策の基本方針が維持されるとの見方から、安定性を取り戻している。」

 7月から過去最高規模ともいえる国債の増発が実施されたが、日銀による国債買い入れの影響も大きく、入札状況に一喜一憂するような場面はなく、淡々と落札されていた。8月28日の突然の安倍首相の辞任発表は、一時的に債券先物の売り要因とはなったが、債券先物はそれほど大きく崩れず、その後買い戻された。

 ただし、下記のような意見も出されていた。

 「8月以降、入札が流れやすくなっており、セカンダリー市場でも流動性が低下気味であることを懸念している。」

 「国債の大幅発行増額も8月の入札まではあまり影響がなかったが、今月(9月)に入ってからは多少テールが出るような結果が続いている。」

 10年債利回りはゼロ%が下値抵抗線となってはいるが、低位安定は続いている。消費者物価指数は前年比マイナスとなり、景気の回復度合いもそれほど強まらず、ファンダメンタルからみて債券市場にはフォローの環境ながら、やはりこれだけの国債の増発は重荷となりつつある。

 「7月から開始された国債発行増額については、現状大きな波乱なく吸収が出来ているように見受けられるが、1回毎の入札に対する警戒度は以前に比べ増していると見られる。」

 国債の入札といえば債券市場にとって大きな注目材料となる。しかし、7月からというよりも、それ以前から債券市場における国債入札への注目度は低下していた。これを材料に相場が大きく動くようなことはなくなりつつあった。

 それだけ日銀の国債買い入れや長期金利コントロールの影響が大きいともいえる。それでも今後、この国債の発行圧力が意識されて、国債入札そのものが材料視される可能性もないわけではない。その意味で、下記のような意見にも注意したい。

 「但し年末までには、本邦追加補正予算と解散総選挙の行方、米大統領選挙とBREXIT交渉期限というイベントに加え、底流に流れるコロナ禍における不況、LIBOR停止に向けたデリバティブ市場の流動性低下と、金利が上下に大きく変動する可能性を相応に孕んでいる。」

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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