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コロナ禍で貯蓄が増加した理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

 9月16、17日に開催された日銀金融政策決定会合の主な意見が公表された。金融政策そのものは予想通りの現状維持となったこともあり、市場の関心度はそれほど高くはなかったが、念の為、目を通してみたところ、下記のようにな指摘が気になった。

 「今般の感染症により、予期せず将来の所得が減少するリスクが認識されたことで、家計の貯蓄性向がさらに高まり、消費の下押し圧力となることが懸念される。」

 新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、経済活動にブレーキを掛けざるをえなくなり、その結果、4~6月期のGDPは個人消費主体に落ち込み、戦後最大規模の減少となっていた。

 今年はじめあたりまでは、今年は東京オリンピック・パラリンピックも控え、国内はお祭りムードも強まろう。海外からの観光客はさらに増加して、インバウンド需要はさらに拡大するであろうと予想されていたと思われる。

 しかし、新型コロナウイルスの世界的な拡大が状況を一変させた。オリンピック開催どころではなく、こちらは延期され、海外との行き来も制限された。空港にずらりと飛行機が駐機している姿や、ほとんど人が乗っていない新幹線の姿が映し出されていた。

 まさかこのような事態になることを誰が想像したろうか。過去にはスペイン風邪なども経験したとはいえ、それを体験として知っている人はいないはずである。過去の歴史でしかみたことがせないことが現代社会で起きたのである。

 さすがにパニックが発生するようなことはなかったものの、人々の社会経済活動がこれをきっかけに一変することも予想される。

 政府はこの対応策として国民一人あたり10万円を配った。その原資が将来の税収を担保とした国債発行によるものであることもあり、それをむやみに使いたくはない気持ちもわかる。

 それ以上に今回のコロナ禍によって、普通の生活が一変してしまうリスクを感じ取り、安易に消費に回すのではなく、将来のために貯蓄に回すということは理にかなっている。それが統計上も示されていた。

 9月18日に日銀が発表した資金循環統計(2020年4~6月期速報値)によると、個人の金融資産は6月末時点で約1883兆円となり、3月末の約1828兆円から増加した。

 個人の金融資産の内訳は、現金・預金が前年比で4.0%増の約1031兆円となり、これは過去最高となった。政府による1人10万円の特別定額給付金の支給が影響したようで、その多くが現預金に回っていたとみられる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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