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FRBの新指針は物価目標の微調整 「当面の間は2%を上回るインフレ率を目指す」

久保田博幸金融アナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 8月末に米国ワイオミング州ジャクソンホールで開催されるカンザスシティ連銀主催のシンポジウムは市場参加者にとり大きな注目材料となっていた。過去をみるとこの会議をきっかけに金融政策に変化が起きたことがあった。しかし、近年は以前ほど注目されることはなくなっていたように思う。

 それでも今年のバーチャル形式で開催されるジャクソンホールでの、パウエルFRB議長の講演内容はひとまず注目はされていた。ところが、このタイミングでFRBは政策そのものを微調整してきたのである。

 FRBは27日、臨時の米連邦公開市場委員会(FOMC)を開き、金融政策の新たな新指針を決めた。何故このタイミングでという気がしたが、ジャクソンホールを意識したのは間違いない。金融政策の目標として声明文に「当面の間は2%を上回るインフレ率を目指す」と明記した。つまり、一定期間の物価上昇率が2%を上回ることを容認する。

 そして、ジャクソンホール会議のオンライン配信のパウエル議長による講演で、新指針を説明するとともに物価が明確に上昇するまで利上げを見送る考えを強調した。

 つまり、FRBの物価目標である個人消費支出(PCE)価格指数が、一定期間、前年比でプラス2%を上回ることを目指す。PCEデフレーターは前年比で1.4%上昇あたりとなり、これが安定的に2%を超すにはかなりの時間が掛かるとの見方が強まることになる。

 日銀の物価目標も消費者物価指数(除く生鮮)が2%を超えた瞬間にゼロ金利政策とかが解除されるわけではない。日銀は「安定的に」2%を超えた際に解除を検討することになる。今回のFRBの修正もこの日銀の「安定的」という部分を持ってきたように思われる。

 これで超低金利政策がより長引くことが連想される。つまり、長めの金利にも低下圧力を加えようとの意図もあったように思われる。ところが、米10年債利回りは当初は低下したものの、その後上昇に転じていた。インフレ期待が強まるとか、景気にプラスの影響をもたらすからとの見方もあったのかもしれない。しかし、市場の一部で期待されたイールドカーブコントロールの採用ではなく、それに近いが長期金利の水準に目標を掛けるような強めの政策ではなかったことで、戻り売りが入った可能性もある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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