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10年国債利回りのゼロ%の壁

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 ここにきて欧米の国債利回りが低下基調となっている。米国では5年債利回りが過去最低を更新、また欧州ではギリシャ10年債利回りが過去最低水準を更新した。

 米財務省は5日、過去最高となる1120億ドル相当を四半期定例入札で発行すると発表したように新型コロナウイルス感染拡大による経済への影響を軽減させるため、大規模な経済政策がとられ、その財源は国債の発行となっている。

 それでも国債利回りが低下しているのは、経済の悪化やそれの影響も手伝っての物価の下方圧力がある。それ以上に中央銀行による国債の買い入れによって、国債価格が上昇(国債利回りが低下)している。

 米国の代表的な株価指数のひとつナスダック総合株価指数は過去最高値を更新し続けている。ダウ平均も過去最高値まではまだ距離はあるものの、回復基調となっている。

 これに対して欧州の株式市場は上昇トレンドに乗り切らずにおり、東京株式市場も同様であり、両者ともトレンドは上や下というより横といった格好となっている。

 これを見る限り、米国株式市場の上昇が例外のようにもみえる。しかし、それを引っ張っているハイテク株が新型コロナウイルスの感染拡大防止のための巣ごもりやテレワークの拡大などで業績をあげている面もある。日本では任天堂などがそれによる大きな恩恵を受けていた。

 いずれにしても過剰流動性相場は続いているようにはみえるが、それはあくまで株価などを下支えている面があり、ここから上昇するには景気の回復を待つ必要があるということではなかろうか。それにはかなり時間も掛かるとの見方もあり、日欧では株式市場の上値が抑えられているのではなかろうか。

 国債については発行増と中央銀行の買入によってある種の均衡が保たれているが、どちらかといえばリスク回避の動きもあり、低下圧力が掛かりやすい。ただし、国債利回りのマイナス化については資金運用者にとってはできれば避けたいところとなり、特に日本ではベンチマークともいえる10年債利回りのゼロ%がかなり意識されている。

 すでに経済実態や物価などの影響を受けて国債利回りが形成されているような状況ではない。政府や中央銀行の政策と新型コロナウイルスというリスクの行方などが長期金利の形成などに関わってきている。株価の動向にも国債利回りが影響を受けづらくなっているのもこれが影響しているとみられる。

 経済指標などによって国債利回りが上げ下げするというより、どの水準であれば投資家もその利回りを享受できるのか、その均衡点を模索しているようにもみえる。これにより10年債利回りのゼロ%が壁と認識されているのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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