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新型コロナウイルス感染拡大は経済危機なのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 7月14、15日に開催された日銀の金融政策決定会合の主な意見のなかで次のような意見があった。

 「経済危機においては、財政政策と金融政策との適切かつ緊密な連携が必要不可欠である。」

 この意見で気になったのは「経済危機」という表現である。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、多くの国ではロックダウンなどにより経済活動を停止させ、感染拡大防止を優先させた。この結果、歴史的な景気の落ち込みが起きていた。

 日銀の6月の決定会合の主な意見では「きわめて厳しい状態にある」との表現が使われていた。

 6月の日銀短観では、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)の悪化幅はリーマンショック翌年の3月に次ぐ過去2番目の大きな落ち込みとなった。

 米労働省が2日に発表した6月の雇用統計では、非農業雇用者数が前月から480万人増となり、1939年の統計開始以降で最多となった。

 これらの数字を見る限り、「経済危機」という表現が適切のように思われるかもしれない。しかし、冷静に考えて本当に経済危機と言えるものなのであろうか。

 百年に一度とされる危機、過去のリーマンショックや日本のバブル崩壊などと今回のコロナ危機は根本的に異なるところがある。今回の危機は人為的に起こされたものであるという点である。また金融危機ではないという点にも注意する必要がある。

 過去、パンデミックが起きてその結果、経済危機は起きたのか。興味深い事例が存在する。1918年から1921年あたりにかけての「スペインかぜ」と呼ばれたパンデミックである。当時の日本内地の総人口約5600万人のうち約2380万人が感染し、最終的に当時の0.8%強に当たる45万人が死亡した。

 当時の経済状況に確認すると、1918年11月にドイツ帝国の敗北により大戦が終結(これにはスペインかぜが影響していたとされる)。これにより日本の大戦景気は一時沈静化する。しかし、米国の好景気が持続すると見込まれたことや中国への輸出が好調だったことより、景気は再び過熱し、1919年後半に金融市場は再び活況を呈し、大戦を上まわるブーム(大正バブル)となった。危機どころかバブルと呼ばれるほどの好景気を迎えていたのである。

 スペイン風邪に対しては、日本では今回でいえばスウェーデンのように経済活動を止めない政策が行われ、その結果、経済に打撃はなかったとの見方もできるかしれない。しかし、ここにきての経済指標の回復度合いをみても、パンデミックによる経済の危機状況は本当に起きていたといえるのであろか。むろん大きな打撃を受けたところも多いことは確かである。しかし、経済全般でみて、危機は本当に発生していたのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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