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骨太の方針では財政再建目標は明記されず

久保田博幸金融アナリスト
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 政府が近くまとめる経済財政運営の基本指針「骨太の方針」の原案が判明した。このなかで、新型コロナ対策で膨らんだ巨額の財政赤字の改善が見通せなくなったことを受け、2025年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化するという財政健全化目標については直接的な言及を見送るようである。

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のための、二度の巨額の補正予算編成によって、国の財政状況は急激に悪化している。このため、従来の財政再建目標の実現が危ぶまれる状況になっている。

 これまでも財政再建目標が現実とかなり乖離していたように見受けられたが、ついにその目標そのものをいったん消滅させたかたちとなる。ただし、基本指針の目次部分に黒字化目標を含む昨年の骨太の内容について「着実に実施する」と記し、財政規律にも配慮する意向をにじませたそうである。

 14日のブルームバーグの記事によると、大手格付け会社3社は、2025年度の達成目標が取り下げられても日本国債の格付け変更につながる可能性は低いことを示唆したそうである。ちなみにこの3社のうちS&Pグローバル・レーティングは、6月に日本国債の格付け「見通し」を「ポジティブ」から「安定的」に引き下げていた。

 そもそも2025年までにプライマリーバランスを黒字化するという目標達成はコロナ以前からすでに危ぶまれていたものであり、コロナ対策で完全に難しい状況に陥った。2020年度の国債発行額は補正予算編成に伴う増発によって過去最大規模に膨らんでいる。

 だからといって財政健全化に向けた姿勢も変えるべきではない。いくら日銀が国債を大量に購入しようが、イールドカーブコントロールがあろうが、仮に日本国債への信認が毀損されるようなことになると、国債価格が急落する恐れは十分にある。

 国際通貨基金(IMF)は新型コロナウイルス感染症のパンデミックで打撃を受けた経済を支援するため借り入れを増やす国の政府に対し、財政に注意を払うよう呼び掛けた。世界の債務水準が今年、過去最大に達し得ると指摘した(13日付ブルームバーグ)。

 現在は新型コロナウイルスが最大のリスクとなっているが、これもいずれ収まることは確かである。世界的に国の債務残高が膨張しており、この債務リスクが顕在化し、あらたな金融リスクとなりかねない。これは日本も同様である。

 だからすぐに健全化すべきというわけではないものの、大規模に債務を増加させたのであれば、いずれその債務を返済する道筋も示すことが重要と思われるのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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