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日常生活の支払いに現金を使う理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀が7日発表した6月の「生活意識に関するアンケート調査」では、個人景況感DIの悪化が2009年9月調査のマイナス72.3以来10年9カ月ぶりの低水準に落ち込んだことが注目された。ただし、景況感以外の数値はそれほど悪化していないこともうかがえた。それはさておき、この「生活意識に関するアンケート調査」には、「家計の決済行動」という項目があり、今回はこちらに注目してみたい。

 日常生活の支払いに現金を使う理由としては以下のことがあげられた。

「多くの場所で利用できる」63.8、63.8

「その場で支払いが完了する」73.7、61.0

「使いすぎる心配が少ない」49.0、48.3

「支払いが簡単」---、40.4

「手数料などのコストがかからない」37.8、26.5

「信頼性が高い」---、25.2

「他の支払い手段に不安がある」19.4、24.7

「支払いにかかる時間が短い」22.8、12.9

「匿名性が高い」11.2、11.1

「日常的に現金は使わない」---、8.2

 数字は左が2018年3月調査、右が今回の2020年6月現在。「---」は2018年3月調査では未設定となっていた。

 これは現金を使う理由の調査であるが、裏を返せばキャッシュレスに対する見方を示したものともいえる。

 日常的に現金は使わないという人が8.2%いたが、これはSuicaなどの電子カードの利用も含まれているとみられ、都心ではQRコードを含んでのキャッシュレスの利用は意外に多いように思われる。

 政府が進めているキャッシュレス化に対して、個人はどのように認識が変化したのか。「手数料などのコストがかからない」という点については、キャッシュレスによるコストの認識はやや低下しているようにみえる。「他の支払い手段に不安がある」というところの数字が増加しているのは、システムなどへの不安の現れか。「支払いにかかる時間が短い」という数字の低下は、キャッシュレスの機器の広がりとともに店側などの慣れもでてきたように思われる。

 意外であったのは現金の「匿名性が高い」との認識は、2018年3月、2020年6月のいずれも数値が低い点であった。もし利便性が上回れば、匿名性の高い現金でなくても問題はないとの認識も強いということなのであろうか。

 このあとの項目に「現金以外の決済手段の利用状況」というものがあり、ここで具体的なキャッシュレスの利用状況も示されていた。

 現金以外の決済手段については、「クレジットカード」との回答が最も多く、次いで「金融機関口座からの自動引落」、「電子マネー」、「金融機関窓口やATMからの振込」といった回答が多かった。

 この日銀の調査における「決済」は物を買うときだけでなく、自動引落などを含めて範囲が拡がっている。さらに交通系カードの交通費の決済なども加えると、決して日本は他国に遅れはとっていないと思われる。現金以外の決済手段を利用する理由は下記があげられていた。

「ポイントや割引などの便益がある」62.8

「支払いが簡単」61.4

「現金を預金などから引き出す手間が省ける」36.5

「現金が利用できない店舗やインターネット購入で利用できるから」30.1

「利用明細や履歴を照会できる」28.3

「後払い、分割払い、ボーナス払いなどが利用できる」18.3

「手荷物(現金・カード等)が軽減できる」13.1

 今後、商品購入の際のキャッシュレス化をさらに進めたいのであれば、体力勝負ともなりかねないポイントなどに頼るのではなく、支払いが簡単で安全、現金を預金などからコスト抜きで引き出す手間が省けることなどを進める必要があるのではないか。

 そして今後、フリーランスやサイドビジネスがさらに拡がるのであれば、確定申告に必要となる「利用明細や履歴を照会できる」点は大きな利点となるが、これについてはクレジットカード明細で個人的には十分である。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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