米国の景況感はまさにV字回復、リーマン時とは異なる
米供給管理協会(ISM:Institute for Supply Management)が発表しているISM製造業景気指数とISM非製造業景気指数は景気転換の先行指標として重視されている。
ISM製造業景気指数は、米供給管理協会が製造業約350社の購買担当役員にアンケート調査を実施し、1か月前と比較して「良い」「同じ」「悪い」の三者択一の回答を元に、季節調整を加えた景気動向指数を作成している。
ISM製造業景気指数とISM非製造業景気指数は、日本での日銀短観のように企業経営者へのアンケート調査によって景況感を数値化したものである。
1931年から続いている伝統的な経済指標でもあることや、主要な米国の経済指標の中では最も早く発表されることに加え、企業の景況感を反映し景気転換の先行指標とされることから、市場での注目度もたいへん高い経済指標となっている。
日本の景気動向指数と同様に、50が景気動向の良し悪しを測る分岐点となる。50を上回ると景気拡大、下回ると景気後退を示唆しているとされる。
7月1日に発表されたISM製造業総合景況指数は52.6となり、6月から9.5ポイントの上昇と1980年8月以来の大幅上昇となっていた。分岐点の50を下回っていたものが、あっさりと50を上回った。
そして、6日に発表された6月のISM非製造業総合景況指数は前月比11.7ポイント上昇し、57.1となった。こちらの上昇幅は過去最大となる。
新型コロナウイルス感染拡大に伴うロックダウン(都市封鎖)が緩和され、経済活動がより広範囲に再開されたことを反映したとされるが、ISM製造業景気指数とISM非製造業景気指数のここ数か月の推移をみると、まさにV字回復となっている。
ISM非製造業景気指数の過去の推移をみると2008年のリーマンショック時にも50を大きく割り込んだが、この際には50を回復するまで時間を要した。しかし、今回はすぐに回復を示した格好となっている。
ISM非製造業景況調査委員会のアンソニー・ニエベス委員長は「調査に回答した企業は、新型コロナや最近の抗議デモを引き続き懸念している。だが、事業活動が再開し始めているため、業況や景気について慎重ながらも楽観的だ」と発表資料で指摘したと、ブルームバーグが報じている。
何度か指摘しているが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のためのロックダウンなどによる人や物の移動制限は人為的に引き起こされたものである。もちろん一部の企業には大きな影響を与えていることは確かである。しかし、政府の支援もあり、またそれなりに体力のある企業は持ちこたえよう。いまのところ金融機関が破綻するような状況にもなっておらず、金融危機が訪れるような気配もない。
新型コロナウイルスの二次感染拡大への懸念も当然残る。しかし、過去のパンデミック時の対応と同様、今後は新型コロナウイルスと共存しながら、正常化を計っていくほかはないとみている。そうなれば景気に関しては危機的状況に陥る懸念は後退しているとみてよいのではなかろうか。