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大番狂わせの5月の米雇用統計、予想外の米国雇用の回復に市場も驚く

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 5日に発表された5月の米雇用統計は、事前予測と現実の数字が過去最大規模の乖離を示した。たとえば、失業率は13.3%となり戦後最悪となった4月の14.7%から一転して改善していたのである。事前の市場予測は20%程度の失業率を見込んでいた。さらに5月の非農業雇用者数は前月比250万人増加となった。「増加」となったこと自体がサプライズであった。ブルームバーグの事前のエコノミスト予想の中央値は750万人の「減少」だった。これはいったい何かあったというのか。

 4月の非農業雇用者数は2070万人減(速報値2050万人減)に下方修正されたが、いずれにしても1939年の統計開始後で最大の減少となっていた。これに対して5月は戦後最大の増加となったのである。これについては米政権の対策が影響していたとの見方がある。

 米政権は企業の雇用維持を条件に6600億ドルの枠を設けて、従業員の給与支払いを肩代わりする異例の資金供給を続けている。再雇用でも企業は資金を受け取れるため、職場復帰が加速した可能性がある(5日付日経新聞)。

 失業率も1930年代の大恐慌以来の高水準である20%に5月は接近すると予想されていたが、実際には4月の14.7%から13.3%に低下していたのである。

 米雇用統計は振れの大きな統計でもあり、6月発表時に5月の分が大きく修正される可能性はある。それでも急激な悪化となることは考えづらい。

 トランプ大統領は統計発表を受けて記者会見を開き、「傑出した」数字だと称賛した。今回の雇用統計の失業率は白人とヒスパニック系で低下した一方、アフリカ系米国人では16.8%とわずかに悪化し、1984年以来の高水準となった点にも注意すべきであろう。

 この大番狂わせの5月の米雇用統計を受けて、5日の米国株式市場はあらためてリスクオンの動きを強めた。ダウ平均は5日続騰となり、前日比829ドル16セント高の27110ドル98セントと、2月24日以来の高値で引けた。さらにはナスダック総合株価指数は一時は9845.69まで上昇し、2月19日に付けた過去最高値の9817.18を上回った。

 すでにナスダックは全面戻しとなった格好に。半値戻しを達成した際にはこのまま全面戻しはありうるのか、やや半信半疑の面はあったが、市場の動きは嘘はつかないというか、チャートの動きには逆らわない方が良いと再認識した次第。

 米債は大きく下落し、米10年債利回りは一時は0.95%と3月20日以来、2カ月半ぶりの水準に上昇した。これはリスクオンの動きによるものといえるが、大規模な国債増発が国債の上値を抑え始めていることにも注意すべきであろう。ドル円は110円が視野に入りつつある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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