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コロナショックがリーマンショックやバブル崩壊、大恐慌などと根本的に異なる点

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 米東部ボストン郊外に拠点を置くバイオベンチャーのモダーナは18日、同社が開発した新型コロナウイルスのワクチン候補「mRNA-1273」について、少人数を対象とした初の臨床試験で有望な暫定結果が出たと発表した。同社は臨床試験第1相の暫定結果として、被験者のうち8人に新型ウイルス感染症の回復者と同様の免疫反応が見られたと説明。ワクチンは「おおむね安全で、忍容性が高い」とし、被験者には注射による赤みや痛み以外の影響はなかったと述べた(AFP)。

 もし新型コロナウイルスに対するワクチンが早期に完成することになれば、経済活動の正常化が進むことが期待される。このため、18日の欧米市場ではリスクオンの動きを強めた。

 米国株式市場でダウ平均は911ドル高、ナスダック総合株価指数は220ポイントの上昇となり、こちらは、2月21日以来ほぼ3カ月ぶりの高値で引けていた。欧州株式市場でも代表的な株価指数であるストックス欧州600種が3月24日以来の大幅上昇となった。原油先物も大幅続伸となった。これに対して米国やドイツなどの国債は下落した。

 モダーナの臨床試験はわずか8人であり、副作用についても今後、規模を大きくした臨床試験で出てくる可能性がある。それにもかかわらず、これだけ大きく反応したのは、金融市場を取り巻く地合そのものがそれほど悪化しているわけではないことを示しているように思われる。

 ここにきて発表される経済指標は戦後最悪、1930年台の大恐慌以来という文字が躍るように、ある意味驚異的な数値が出ている。それにもかかわらず、株価がしっかりしているのはなぜなのか。

 市場関係者は状況を把握していないのかという疑問もあるかもしれない。むしろ金融市場関係者のほうが冷静に状況を捉えている可能性もある。

 今回のコロナショックに比較されるものとして1930年台の大恐慌、2008年のリーマンショックなどがあげられよう。日本で言えば1990年台のいわゆるバブル崩壊もあげられるかもしれない。

 この大恐慌、リーマンショック、そして日本のバブル崩壊と、今回のコロナショックには根本的に異なる点がある。大恐慌、リーマンショック、そして日本のバブル崩壊は株価などの買われすぎの反動などもあって自然発生したものといえる。しかし、今回のコロナショックは人為的に経済活動を停止させた結果、生まれたものである。

 大恐慌、リーマンショック、そして日本のバブル崩壊は、衝撃の大きさそのものはコロナショックも同様であったものの、金融危機であったかどうかという点において異なっている。大恐慌を生んだのも、リーマンショックもいわゆる金融危機が大きな要因となっていた。日本のバブル崩壊も同様であり、1997年には北海道拓殖銀行や山一證券が破綻している。

 もちろん今回のコロナショックが原因で金融危機が訪れる可能性はゼロではない。しかし、リーマンショックを経てむしろ金融機関は体力を強めている。日本企業などでは内部留保を積み上げるなど、ある意味、危機への備えもしていたことで、多少の期間であればそれほど大きな痛手とはならない。もちろん中小企業やフリーランスへの影響は大きい。大手といえど経営が悪化していた企業が、これをきっかけに破綻するようなケースも出てきている。しかし、これによって金融危機といった危機的状況が生まれるということは、むしろ考えにくい面もある。

 もし新型コロナウイルスのワクチンが開発されるようなことになれば、不安は大きく解消されることも考えられる。

 相場に絶対ということはない。それでも今回の株式市場などの動きを見る限り、経済指標の数値ほどには悲観的にはなっていないように思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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