米雇用統計は戦後最悪の状況を示すものの、米株は大きく買われたのはどうしてなのか
8日に発表された4月の米雇用統計では、景気動向を映す非農業雇用者数が前月比2050万人減となった。1930年代の大恐慌以降で最大の落ち込みとなった。そして、失業率は第2次世界対戦後に記録した1982年11月の10.8%を上回り、戦後最も高い数字となる14.7%となった。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、経済活動が制限されたことが影響し、雇用が急激に悪化したことが示された。それにもかかわらず、この日の米国株式市場ではダウ工業株30種平均は前日比455ドル43セントもの上昇となり、24331ドル32セントで引けた。ナスダックも同様に上昇し、前日比141.66ポイント高の9121.32となった。
どうして過去最悪ともいえる雇用の悪化を数値でみせられても、株式市場は売られるどころか大きく買われたのか。これには米中の対立姿勢が緩んだこと、さらにこの雇用統計の数字はあらかじめ予想されていたことで織り込み済みであったとの見方もできる。しかし、それ以上に米国内での経済活動の制限が緩和され始めたことなどから、米景気が最悪期を脱したとの楽観的な見方が強まり、相場そのものの地合が好転していたことが、8日の株価の上昇につながったとみられる。
先日6日の米国株式市場では主要ハイテク株などを主体に買い進まれ、代表的な株価指数のひとつであるナスダック総合指数は125.274ポイント高の8979.662となり、3月4日以来2か月ぶりの高値をつけてきた。これは昨年末の引け値の8972.604を上回ってきていた。
ナスダック総合指数とは、全米証券業協会(NASD)が開設・運営している電子株式市場NASDAQに上場している銘柄の全てを対象に時価総額加重平均で算出した指数となる。NASDAQ市場にはハイテク株やインターネット関連株の多くが上場しており、ハイテク株の占める割合が高い。インテル、マイクロソフト、アップル、フェイスブックなどが上場している。
ナスダック総合指数のザラ場中の過去最高値は今年2月19日につけた9838.37であり、そこから下落し3月23日に6631.42まで下落した。そこから再び回復基調になり、8日には9000ポイントも抜いてきている。2月19日から3月23日に下落したが、そこからの半値戻しは8234.89となり、これは4月14日にすでに達成していた。そこからさらに上昇基調を辿り、過去最高値が視野に入りつつある。
ちなみにダウ平均は2月12日に29568.57ドルをつけてここがいったん最高値となった。ここから下落し、3月23日に18213.65ドルまで下落した。この半値戻しは23891.11ドルとなる。こちらも5月5日に半値戻しを達成している。ダウに関しても半値戻しは全値戻しとなる可能性はチャート上からはありうる。
今回の新型コロナウイルス感染拡大抑制のための世界的な活動自粛の動きは、経済そのものに過去に例をみないような大きな打撃を与えている。ただし、自粛によりテレワークの増加、自宅でのネット利用の増加などもあり、ハイテク大手、ネット大手はむしろ恩恵を受けているところもある。このため、ナスダックがいち早く回復基調となった面もある。とはいえ打撃を受けてる企業も多いはずながらも、ダウ平均もしっかり値を戻しつある。
4月30日の東京株式市場でも日経平均は2万円台を回復し、1月の高値から3月の安値までの下落幅の半分を戻す、いわゆる半値戻しをこちらも達成した。ここからはいったん下落基調となっていたが、5月8日には再び2万円を回復した。
これがいつわりの株価上昇なのかといえば、そう断言することもできない。むしろこの株価が何かを示しているということもありうる。世界的な景気の急激な落ち込みは誰しも感じているところであり、株価だけが浮かれて上昇していることは考えづらい。もしかすると新型コロナウイルス感染拡大による経済への影響は大きいものの、これが短期的なものに止まり、経済の根幹は揺るぎないという自信の表れなのかもしれない。感染拡大に歯止めがかかれば経済は自律回復する力があるとの指摘もある。新型コロナウイルスの二次感染拡大の恐れもあり、株式市場には「絶対」という言葉は使えない。それでも、少なくともいまのところはこの流れには逆らわないほうが良いのではないかと思われる。