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新型コロナウイルス感染拡大を受けて、ドル円はどう動いたのか

久保田博幸金融アナリスト
日経新聞のデータを基に著者作成

 今回の世界的な新型コロナウイルスの感染拡大による対ドルでの円の動きについてみてみたい。つまりドル円としての動きを確認したい。  

 ドル円のチャートからみて、大きな動きの発端は2月20日あたりからといえる。ドル円は20日の欧米時間で112円台まで上昇していた。ここからドル円は大きく下落した。この際にはドル円だけでなく、米国株式市場の3指数も日経平均はほぼ同じタイミングで急落となった。ユーロドルの動きをみると同じタイミングで大きく上昇していた。つまり対ユーロでドルも下落していた。

 韓国やイタリア、イランなど中国以外での新型コロナウイルスは感染者が急増し、21日から24日にかけて欧米の株式市場は大幅続落となった。25日には米国の疾病対策センター(CDC)が国民に対し、米国内での新型コロナウイルス流行に備えるよう注意喚起を行った。新型コロナウイルスが米国でも広がるとの懸念が強まったことで、これも株式市場の下げピッチを早めさせ、ドル円も同様に下落し一時110円割れとなる。

 3月に入り、FRBなど中央銀行の新型コロナウイルスの対応策から米株など記録的な上げ幅となるなどしたが、実際にFRBは緊急のFOMCを開き、政策金利を0.5%引き下げると発表した3日の米国株式市場はむしろ下落した。金融緩和策で新型コロナウイルスの感染拡大が止まるわけではないことも意識されたか。4日にドル円は107円を割り込んだ。

 米議会で約80億ドル規模のウイルス対策緊急予算措置がまとまり、3日のスーパーチューズデーで、バイデン氏が10州で勝利した。しかし、この好材料もカリフォルニア州が非常事態宣言を発令するなどしたことで相殺された格好となった。

 米国内での新型コロナウイルスの感染者が増加し、米10年債利回りは一時0.9%を割り込み過去最低を記録した。ドル円は一時106円割れとなった。

 8日に米10年債利回りは一時0.66%まで低下し、9日の東京時間でドル円は一時101円台半ばあたりまで下落した。ドル円はここが目先の底となったが、株式市場の下落は続いた。このあたりから株式市場とドル円の連動性が薄れたというか動きが反対になってきた。

 9日にサウジアラビアによる原油増産観測などから原油先物価格が急落し、これも影響しダウ平均は2013ドル安と過去最大の下げ幅となった。米10年債利回りは一時0.22%まで低下した。ちなみに8日に日本の債券先物は155円61銭まで上昇し、過去最高値を更新していた。

 このよう状況下、10日の東京時間でトランプ大統領が減税を含めた大規模な経済対策を発表すると報じられ、ドル円は朝方の102円近辺から午後に入り、105円台にまで値を戻してきた。このあたりからドル円は急速に値を戻すことになる。

 トランプ大統領が11日夜の演説で、新型コロナ対策として、13日から英国を除く欧州からの渡航を30日間禁止すると発表。これを受けて需要懸念に拍車が掛かった。12日のダウ平均は2352ドル安となり、過去最大の下げ幅を更新。下げ率(10.0%)も1987年10月19日のブラックマンデー(22.61%)以来の大きさに。ナスダックも750ポイントの下落となった。

 13日の東京市場では日経平均だけでなく、債券先物も大幅に下落していた。円資産からドル資産への回帰なども意識されての動きともみられた。いわゆるキャッシュ化、ドル化の動きが強まったことで、ドル円も上昇し106円台を回復した。

 15日にはFRBが臨時のFOMCで政策金利を実質ゼロとし、量的緩和政策も再開させた。さらに日米欧の中央銀行は米ドル・スワップ取極を通じた流動性供給を拡充するための協調行動を公表した。

 16日には財政への懸念も加わってか、米債は大きく売り込まれ、米10年債利回りは1%台を回復。リスク回避の動きは、キャッシュ化にむけた米債売りともなって、18日の米10年債利回りは一時1.26%に。19日の東京市場では、ドル円は一時109円半ばまで上昇した。

 FRBは18日夜にMMF向けに資金供給を始めると発表、18日にはECBも緊急の資産購入を決め、19日にBOEも緊急利下げ等を発表。ドル円は19日から26日にかけ110円を超す場面もあったが、今度はこの水準が戻り高値となった。

 23日あたりから今度は米株などが急速に値を戻してきた。米議会で規模約2兆ドルの新型ウイルス対策法案が可決されるとの見方なども要因となったが、この株価の戻りによっていわゆるキャッシュ化によるドル高の流れが収まり、その反動が起きた。

 まとめてみると、2月20日あたりから3月9日あたりにかけてのドル円の下落は、米国での新型コロナウイル感染拡大などを受けてのドル売り圧力の強まりが、ドル円を押し下げ、ユーロ円を押し上げた。

 しかし、3月9日あたりからは株価の歴史的な下げなどを受けて、いわゆるキャッシュ化の動きを強めた。ドル化によってドル円が急速に切り返してきたのである。しかし、株価の急落が収まり、ダウなどが値を戻してきたことで、ドル化の流れのアンワインドのような動きとなって今度はドルが下落し、ドル円も反落したということになるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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