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トランプ大統領が再度FRBを批判、米中協議内容に不満でも?

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

  トランプ米大統領は15日、「第1段階」の米中通商合意の署名式で、連邦準備理事会(FRB)に対する不満を改めて表明した。これまでもFRBやパウエル議長に対して、トランプ大統領は批判を繰り返してきた。政策金利はマイナスにすべきとするなど、通貨安政策も意識した大胆な緩和策を打ち出すべきとしているのが、トランプ大統領である。

 トランプ大統領が批判の矛先をFRBに向ける際には、なにか別のことがうまくいっていないときが多いともされる。今回の第1段階の米中通商合意の署名式というタイミングを考えると、思ったほど中国側が折れてこなかったのではないかとの思惑も出てきそうである。それでも大統領選を睨んで、ここで第一弾の合意の必要性は認識していたことで、合意書に署名はせざるを得なかったのではなかろうか。

 「第1段階」の米中通商合意の署名式の前にトランプ大統領は50分に及ぶ演説を行ったとも伝わった。その話の内容は多岐にわたり、まるで大統領選挙時における演説のようだったとも報じられた。そのなかでFRBのことについても触れたようである。

 さらにトランプ大統領は、FRB議長にウォーシュ元FRB理事を指名しておけばよかったとも発言した。その会場にウォーシュ元FRB理事がいたのに気がついて話を振ったとも考えられる。そのウォーシュ元FRB理事はイエレン前議長の後任として名前が挙がっており、議長の後任候補としてトランプ大統領が面会していた。

 それではウォーシュ元FRB理事はいわゆるリフレ派に近いような人物かといえば、当然ながらまったくそんなことはない。

 ウォーシュ元FRB理事は、WSJへの寄稿でFRBのインフレ目標を現在の2%から、1~2%のレンジに引き下げるよう提案したこともある。また、QEと呼ばれた量的緩和策についても批判的な発言もしていた。利下げについても積極的ではないとされている。ハト派というよりタカ派のイメージである。

 ウォーシュ氏が議長となっていれば、日銀やECBなどのように闇雲な、いや積極的な金融緩和政策を取っていたのかといえば、それはなかったと思われる。トランプ大統領にとって、さらなる利下げをためらう現在のFRBとそれを引っ張っているパウエル議長がお気に召さなかっただけで、パウエル氏にしなければ良かったということなのであろう。

 このトランプ大統領の発言に対して、この日講演したFRB当局者は、金利が適正水準にあり、経済成長の維持とインフレ率の押し上げにつながるとの見解を相次いで示したようである。

 とりあえず米国では中央銀行の独立性は維持されている。ちなみにウォーシュ元FRB理事はFRBはもっと謙虚な姿勢で議会やホワイトハウスに対応すべきとの考えも示していたそうである。この意見にはあまり賛同できない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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