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株式市場や債券市場の相場変動要因を掴むための注意点とAIの限界

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 12月に入り、株式市場や債券市場が乱高下してきている。なぜ乱高下が起こっているのか。ここ3日間の欧米市場と東京市場の動きからそれを探ってみたい。

 12月2日の米国株式市場ではダウ平均は268ドル安となった。これはトランプ大統領がブラジルとアルゼンチンから輸入する鉄鋼とアルミニウムに直ちに関税を課すと表明したことがきっかけとなっていた。この関税復活は米中の貿易摩擦において、米国に代わって中国に大豆など農産品を輸出する2国への報復に相当するとされた。トランプ大統領はFRBへの批判を再び繰り返していたが、米中の通商交渉がうまくいっていないのではとの観測も株安の背景にあった。

 ただし、この日の米国債も下落していた。米10年債利回りは1.82%と先週末の1.77%から上昇していたのである。今回の米株の下落はリスク回避の動きと捉えられてもおかしくはない。しかし、米国債は買われるのではなく売られていた。明確な理由は見当たらなかったものの、ドイツなど欧州の国債が売られていたことが大きかったのではないかと見ていた。

 そして、翌3日、トランプ大統領は米中貿易協議の合意について、大統領選挙後まで待つのは良い考えだと思うと発言した。つい本音がぽろりと出てしまった可能性がある。交渉が遅れるとなれば、12月15日に対中追加関税を発動する可能性が高まる。USTRが24億ドルのフランス製品に最大100%の制裁関税を検討すると発表したことで、世界的な通商摩擦も意識された。3日の米国株式市場でダウ平均は280ドル安と大幅続落となった。

 3日の米国債はリスク回避から素直に買われていた。米10年債利回りは1.72%と前日の1.82%から大きく低下した。これはリスク回避の動きとなる。この日は欧州の国債も買い戻されており、2日の下落はいったい何であったのかということにもなる。

 そして4日には、貿易協議の第1段階で撤回する関税額について合意に近づいているとも報じられ、トランプ大統領も中国との通商協議について極めて順調に進捗していると表明した。いったい3日の「大統領選挙後まで待つのは良い考えだ」との発言は何であったのか。一日で前言をひっくり返すあたり、しかも米国サイドからの情報ということもあって注意は必要となる。何を信じるべきかはさておき、4日の米国株式市場はそれまでの下げすぎの反動も加わり、ダウ平均は146ドル高となった、戻りがやや鈍く見えるのは市場も疑心暗鬼であったからであろう。

 そして4日の米10年債利回りは1.77%と前日の1.72%から上昇した。欧州の国債も同様に売られた。4日には11月のISM非製造業総合指数が発表され、予想を下回っていたがこれに対する反応は低かった。2日に発表された米ISM製造業指数は48.1と前月から0.2ポイント低下したことで、この日の米株の売り要因となっていたとされる。ISM製造業指数より、ISM非製造業のほうが市場に大きな影響をあたえるとの声もあったが、今回はそのようなことがなかった。

 市場の動きに対してはこのような説明も可能ながら、トランプ大統領の発言やツイート、さらに経済指標に対する反応度、また金利そのものの動きの要因など、なかなか説明しづらい面もある。

 市場の反応は機械的に行われているわけではない。流れそのものの見極めと共に、市場は何に敏感になっているのか、その反応度についても感覚的に見ておく必要がある。

 これを例えばAIなど機械で判断させることは困難に近い。市場の価格形成は物理的な法則とかに沿ったものではない。人間の行動原理や気迷い、噂に対する感応度、それが真実かどうかの見極めなど、価格そのものの動きなどを含めて、判断していくことになる。

 そういったものが累積されての価格変動ということになる。機械はそのような判断を感覚的に掴むことはできないのではなかろうか。しかし、動きが出るとそれに乗っかってくることで価格の動きを加速させる要因とはなっており、ここにきての大きな値動きの背景のひとつにはなっていると考えられる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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