大口注文を前に自らの注文を入れてしまう取引手法はいかがなものか

(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 むかしむかし、株や債券の取引は人と人が行っていた時代があった。1980年代後半のバブル時代の動画にはよく東京証券取引所が映し出されていた。大きなホールにたくさんの人がいて紙吹雪が飛んでいた。これは東証のフロアーで、証券会社の場立ちと呼ばれた売買担当者、その場立ちの注文を受ける実栄証券の担当者、そしてそれらの取引をチェックしている東証の担当者で構成されていた。

 証券会社の場立ちは支店などで受けた注文を執行する。ホールは罵声が飛びあい、大きな声を出してもなかなか通じない。このため手のサインで株の銘柄と数量を実栄証券のその担当者に伝える。これらの注文を照らし合わせて約定を行い約定が成立すると、東証の担当者がそれを確認し、外部に伝えられる。たぶんこんな仕組みではなかったかと思う。

 実は私も場立ちと同じ仕事をしていたのだが、債券市場は株式市場とは売買方式がやや異なっていた。取引所の債券取引で最も頻繁に売買されているのが、債券先物と称される長期国債先物であった。その売買方式は、私のような証券会社や、債券先物の取引には準会員として参加できた銀行の担当者が、東証と直接繋がっている黒電話で注文を出す。取引所で注文を受けるのが実栄証券の担当者で、その実栄証券の担当者が扇形の階段形式のフロアーで直通黒電話の前に座り、受けた注文を扇方の要の位置にたっている取引所の担当者に伝えその注文を板に並べ、約定が成立する。

 この時代、証券会社には大手四社の存在力が大きかった。株式のフロアーでは、法人などの大口注文が来ると、場立ち達はそれをいち早く感じ取り、その注文の前に同様の注文を出して、大口注文が来たところで利食うといった短期のディーリングも行われていた。証券会社の担当者には委託注文を受けずに自己の判断で会社の資金で売買を行うものもいたことで、そのような取引も可能となっていた、もちろんそのようなさや取りばかりやっていたのではなく、相場勘とともに場の状況を見ながら売買を行って一定の売買益を稼いでいた。

 債券先物にも同様の短期のディーラーがおり、私もその一人であった。ただし、債券先物は黒電話でしか売買は出せない。このため、大口注文の前に自分の注文を出すようなことは難しかった。もちろんそんな手段だけでは安定した利益は出せないので、これは値動きなどから相場勘を磨くのが先決となっていた。

 債券の取引では現物債取引もあり、こちらは取引所よりも日本相互証券での売買が主流であった。やはり、直通電話を使って売買を行っていた。こちらも大口注文の前に自分の注文を入れるといったことはできなかった。ただし、証券会社の担当者は自己だけでなく委託注文も受けることがある。特に大手銀行から大きな委託注文が入るところもあり、知り合いの証券会社の担当者は、自分のポジションと反対の大口委託注文が入った際、自分の注文を相殺ドテン(反対売買をした上で新規ポジションを加える)したあと、大口の委託注文を入れたことがあると聞いたことがある。これは異例中の異例ではあった。

 これらはいまは昔の話である。いまは債券も株も取引はコンピュータ上で行われている。そのなかにあって、大口注文を前に自らの注文を入れてしまう手法があるという。それもひとつの手法であり、超高速で売買を繰り返すHFT(ハイ・フリークエンシー・トレード)という取引もそういった鞘狙いのものであろう。相場は相場勘で儲けるべきものであり、私はHFTみたいな取引で儲けるという手法は好きではない古い人間である。

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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