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最も安全な資産運用とされる個人向け国債は何が魅力なのか、特に10年変動タイプが好まれる理由

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 10月に募集された個人向け国債の発行額は、3年固定利付タイプが594億円、5年固定利付タイプが201億円、10年変動利付タイプが3748億円となった。合計で4543億円となり、4か月連続での4000億円台の発行額となっていた。

 個人向け国債が安定的に一定金額が発行されている理由として最も大きなものに最低保証金利がある。どのタイプのものも0.05%という最低保証金利が存在しており、10年を超す国債の利回りがマイナスとなるなか、0.05%でもその存在は大きい。預貯金金利と比較して、個人向け国債の最低保証金利の方が高いケースが多い。相対的に個人向け国債の金利が高いことがひとつの魅力となる。

 個人向け国債は発行されてから1年経過すると財務省が額面で買い取ってくれる。これはつまり金利の上げ下げによる金利変動リスク、これは裏を返せば価格変動リスクということになるが、これが個人向け国債にはない。有価証券などによる資産運用ではどうしても価格変動リスクに晒されるが、個人向け国債にはそのリスクがない。裏を返せば儲かることもないとはいえるものの、価格下落による損失はないということになる。

 個人向け国債はその名の通り、個人しか買えない。つまり、販売している証券会社や銀行などは保有することができない。市場に出回ることもない。売却する際には証券会社などの販売会社を通じるが、そのまま財務省が買い取る仕組みとなっている。このため、売りたいときに売れないといった流動性リスクもない。

 このように有価証券などの3つのリスクのうちの価格変動リスクと流動性リスクが個人向け国債には存在しないのである。もうひとつの有価証券での資産運用時のリスク、信用リスクについては日本国債への信用度は個人によって違うかもしれないが、金融市場では国債はリスクフリー、つまりリスクはないものとの認識となっている。もちろん国のデフォルトリスクはゼロではないため、完全にノーリスクというわけではない。

 それでは何故、3年固定や5年固定より、期間の長い10年の発行量が多いのであろうか。これは将来の金利変動を意識したものと思われる。3年固定や5年固定は当初決められた利率が償還まで続く。現在では0.05%の最低金利となっている。10年変動も同様に初期利子は0.05%となっているが、今後10年国債の金利が最低保証金利の0.05%を上回ってくるようになれば、10年変動はそれに応じてもらえる金利が変動する。つまり0.05%を超える利子となる可能性が10年変動には存在する。これが10年変動タイプが好まれる理由のひとつとなっていよう。

 販売会社にとってもこれを理由に10年変動タイプを薦めているのではなかろうか。さらに10年変動の募集手数料が最も高いことも影響しているかもしれない。この募集手数料は財務省から販売会社に支払われるものであり、購入者から徴収されるものではない。手数料が取られないことも密かな利点となっている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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