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無理に追加緩和を行う必要性はあるのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 7月29、30日に開催された日銀金融政策決定会合の議事要旨が公表された。このなかの、当面の金融政策運営に関する委員会の検討の概要において興味深い発言があった。

 「複数の委員は、様々な緩和策に関する利害得失を含め、予め緩和策を検討しておく必要があると指摘した。」

 憶測となってしまうものの、これは総裁、副総裁も含めた意見ではないかと推測されるのである。

 「一人の委員は、緩和による副作用の累積が長年にわたるという時間軸も踏まえ、金融機関のリスクテイク姿勢の変化や、金利の低下が金融機関の収益や貸出姿勢に与える影響も見極めつつ、金融の不安定化を未然に防ぐという観点からも、金融政策をより慎重に検討する必要があると述べた。」

 これは銀行出身の鈴木委員の発言とみられる。

 「ある委員は、現行の緩和を続けるためには、金融システム面により留意すべきとの見方を示した。複数の委員は、副作用を緩和する方法を不断に検討する必要があると指摘した。」

 その上で、「一人の委員は、仮に追加緩和により副作用が生じるならば、それを緩和する方法を検討する必要があると指摘した。」

 「副作用を緩和する方法」に注意となる。

 つまり7月の決定会合時点において、副作用の軽減を意識した追加緩和策について、日銀の事務方の執行部に何かしら検討するようにと指示があった可能性が高い。

 日銀はこれまで、追加緩和の政策手段の具体策として、短期政策金利の引き下げ、長期金利操作目標の引き下げ、資産買い入れの拡大、マネタリーベース(資金供給量)の拡大ペースの加速の4つを示していた。

 しかし、現在の日銀による金融調節の目標は量ではなく金利となっている。資産買い入れの拡大、マネタリーベース(資金供給量)の拡大については、政策目標を量に戻すことも必要とみられ、これは現実的ではない。

 質という面からはETFの買入増額などもないわけではないが、日銀による株式市場の依存度をさらに高めることにもなりかねず、これも考えづらい。日銀としては株価が比較的安定しているなか、ETFの買入は減らしたいところであろう。

 金利という面からは、長期金利コントロールもあるが、こちらは黒田総裁が口頭でプラスマイナス0.2%という数字を出しているが、正式にはゼロ%となっている。長期金利のレンジ拡大というのは政策変更ということになるかは微妙なところ。

 そして最後に残るのが短期金利となる。これは現状、日銀当座預金のうち政策金利残高に付く金利である。現状はマイナス0.1%であり、これをマイナス0.2%に引き下げるということは可能ではあり、黒田総裁の出した四択のなかでは、これが一番現実的とみられる。

 しかし、仮に短期金利を引き下げるとなれば、さらなるマイナス金利の深掘りとなり、いまのところプラス金利にある超長期と呼ばれる長い期間の金利にむしろ低下圧力が加わりかねない。

 このため、副作用というかこのイールドカーブのフラット化を抑制させて、スティープ化させる工夫が求められることになったのではなかろうか。足元金利を引き下げても、長めの金利が上昇すれば、金融機関は利鞘が稼げる格好となる。

 その結果のひとつが、超長期と長期ゾーンの国債買入の減額や、アナウンスメント効果を狙っての黒田総裁の発言か。

 24日に黒田総裁は講演で、「仮に短中期金利を下げることになれば、超長期金利が行き過ぎた低下をすることがないよう必要に応じて国債買い入れを調整する」と述べていた。

 果たして、利下げを行うと同時に、国債買い入れの調整で日銀が思うようなイールドカーブのコントロールは可能なのか。これについては、たしかに25日の債券市場をみると、中期が買われ、超長期が売られるなどはしていた。

 それでも操作が本当に可能なのかは、疑問と言わざるを得ない。日銀が予防的とはいえ利下げをしなければいけないほどのリスクが高まっているとなれば、より長い金利に低下圧力が加わりかねない。

 ツイストオペ、つまりは中短期の国債を買って、長期・超長期の国債を売るというオペレーションの観測まで出ているようである。それほどまでして、無理に追加緩和を行う必要性はまったく感じられない。追加緩和ありきとなり、無理矢理にでも追加緩和をしなければいけないのが、いまの日銀なのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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