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再び市場を揺るがしかねないリスク要因が複数発生

久保田博幸金融アナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 中国政府は複数の国有・民間企業に対し、米国産大豆を報復関税なしで輸入することを認める新たな措置を導入したとブルームバーグが報じた。これを受けて24日の米国株式市場では米中対立が和らぐとの期待が広がり、ダウ平均は一時は130ドル近く上げた。

 ところが米国のトランプ大統領は、国連総会での演説において、中国の貿易慣行や為替操作などを批判したうえで「(貿易交渉では)米国民にとって悪い取引は受け付けない」と明言した(25日付日経新聞電子版)。

 この発言に24日の米国株式市場が反応して、下落したことを気にしたのか、今度はトランプ大統領は中国との貿易協議が想定より早く決着するだろうと述べたが、米中の通商交渉については先行きの不透明感が再度強まりつつある。

 さらに発表された9月消費者信頼感指数(コンファレンス・ボード)が予想を下回り、個人消費の減速懸念も出たことで、24日の米国株式市場は下落ピッチを強めた。

 米中の対立がむしろ激化するとの懸念や米国経済への減速への懸念が再びリスク要因となってきたが、ここに新たなリスク要因が加わった。

 野党・民主党のペロシ下院議長がトランプ米大統領の弾劾に関する調査開始を発表すると報じられたのである。ペロシ議長はこれまで、弾劾プロセスを始動させようとする多くの民主党議員の動きを抑える側だったが態度を一変させてきた。

 トランプ大統領が、来年の大統領選挙の民主党有力候補と目されているバイデン前副大統領の息子の調査をウクライナのゼレンスキー大統領に繰り返し要請したとされる。

 疑惑を深めているのはトランプ政権が7月、ウクライナへの2億5000万ドル(約280億円)の軍事支援を保留した事実とされる。ウクライナに対し、支援を実行する見返りとして調査への協力を求めたとの観測もあった(21日付日経新聞)。

 トランプ氏が大統領職を退くシナリオはいまのところ現実的ではない。下院で弾劾訴追しても上院では与党・共和党が過半数の議席を占めるため、罷免に必要な3分の2を超える賛成票を上院で集めるには共和党議員が造反する必要がある。それでも疑惑が強まれば、その可能性がまったくないわけではない。過去に弾劾の結果解職された大統領はいないものの、ニクソン大統領は、解職の可能性が生じる前に自ら辞任していた。

 そしてもうひとつ、こちらはリスク要因ではないかもしれないが、英国でも動きがあった。英国の最高裁判所は24日、ジョンソン首相による議会閉会は違法との判断を下し、議会を可及的速やかに再開するよう求めた。バーコウ下院議長は25日に議会を再開すると発表した。ジョンソン首相は録画されたテレビ取材で、「明確な判決として敬意を表するとともに司法のプロセスを尊重する」と述べた(ロイター)。

 10月31日の離脱期限を控え、ジョンソン首相と議会の対立姿勢がさらに深まる可能性がある。これは10月末での合意なき離脱を回避させるものとなるが、それでも依然として、英国のEU離脱シナリオは見えてこないことも確かである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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