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マイナス金利政策を求めたトランプ大統領

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ米大統領は11日、FRBが「(政策)金利をゼロかそれ以下に引き下げるべきだ」とツイッターで要求した。大幅利下げに動かないパウエル議長とFRBを「間抜け」とこき下ろした。トランプ氏は、低金利にすれば債務の利払い費を大幅に抑えられるとの持論を展開し、米国は常に最も低い金利であるべきだと投稿したそうである(時事通信)。

 これは日銀やECBなどの欧州諸国の政策金利がマイナスにあるのに、FRBは何度も「利上げ」をしてしまったことで政策金利がプラスにあることを批判したものであろう。

 そもそも米国だけが利上げをできるだけの環境に置かれていたとも言えるし、すでにリーマン・ショックやらギリシャ・ショックやらの非常時対応の必要性はなくなっており、景気そのものも回復基調にある。米国の物価は消費者物価をみると2%近傍で安定しているようにみえる(8月のコアは前年比プラス2.4%)。そのなかにあって何故、政策金利をマイナスにしなければならないのか。

 金融政策は財政を手助けするためのものではないし、本来助けるべきものではない。どこの国でも財政ファイナンスは禁じられている。

 たしかに日銀の金融政策は財政を助けているようにみえるが、これは実情に合った本来の金融政策ではなく異端の政策を政権に押しつけられた結果とも言える。これにより身動きが取れなくなり、FRBのような正常化に向けた出口戦略が取りづらくなった。

 欧州については景気減速が明らかになっていたことに加え、英国のEU離脱問題やイタリアの政局不安を抱え、ECBは正常化に向けた動きを阻害された。それよりもドラギ総裁自身が正常化に向けた動きにあきらかに慎重となっていたこともあろう。

 いまさらあの米国大統領のツイートに反論しても意味はないかもしれないが、財政を助け、株価をつり上げ、ドル安に誘導するのがFRBの仕事ではない。むしろ、そういったことを求めやすい政治の動きから離れて、ファンダメンタルズに即した金融調節を行うのが中央銀行の使命となる。それも理解はしていないというか、理解する気もトランプ氏はなさそうである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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