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日本での50年や100年の国債発行の可能性

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 米30年債利回りが一時2%を割り込み、過去最低水準に低下したことを受け、米財務省は償還期間が30年を超える超長期債を発行する可能性について、市場参加者へのヒアリングを再び実施すると明らかにした。

 再びということは以前にも同様の動きがあったということになる。これは2016年7月に世界的に長期金利が低下し、米10年債利回りも1.35%と過去最低をつけたあたりから出ていたようである。当時のムニューシン財務長官は、米国で超長期国債の発行を検討する考えを何度も示していた。

 しかし、2017年に財務省内米国債発行諮問委員会(TBAC)が財務長官に提出した報告書によると、50年、100年といった超長期債の強い需要、持続的な需要があるとの確証はない、とした上で、必要であれば30年かそれより短い期間の国債発行を増やすことが望ましいとの見解が示されていた。このため米国での50年債や100年債の発行は現実化しなかった。

 今回についても同様な結論となることが予想され、市場からのニーズが乏しいとなれば、検討に止まることが予想される。

 海外では50年を超す期間の債券は国債を主体にすでに発行されている。フランスやイタリア、ポーランド、スイスなどで50年債が発行されており、オーストリアやメキシコ、アルゼンチン、そして私募であったがベルギーとアイルランドなども100年債を発行した。中国でも100年債が発行されている。

 米国での50年債や100年債の発行の可能性はさておき、日銀による国債買入と長期金利コントロール、さらには世界的なリスク回避による金利低下をうけて、イールドカーブが押し込まれている我が国ではどうであろうか。

 すでに2019年4月に国内初の50年債が発行されている。これは国債ではなく三菱地所が発行した社債であった。いまのところ国債では50年債の発行が検討されていることは明らかにはなってはいない。

 ただし、いくら金利が低いからといって投資家も長い期間の債券を買うのも慎重になることも予想される。いまから100年前の1919年(大正8年)に100年債が発行されていたらどうなっていたか想像も難しい。そもそも国債発行額も抑制されていることで、他の年限の国債を減額してまで発行する必要があるのかという問題も生じる。

 ちなみに日本の国債(建設国債と赤字国債)には60年償還ルールがある。この国債整理基金に関する法律である特別会計法を改正するなどしなければ、60年を超える年限の国債を発行することは難しい格好となっている。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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