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金融市場でのリスク要因が増加中、香港、イタリア、アルゼンチンも

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 金融市場でのリスク要因に新規のものも加わり、今後の金融市場を取り巻く状況が読みにくくなってきた。

 そのリスク要因のひとつというか本命にあたるのが、米国と中国との関係となる。トランプ米大統領は9日のインタビューで、米中の貿易交渉について「中国と合意する準備ができていない」などと述べ、9月上旬に予定される米中貿易協議を中止する可能性を示唆した。中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)についても米政府は取引しないとしていた。

 中国人民銀行(中央銀行)は12日、人民元取引の対ドル基準値を8営業日続けて元安に設定した。中国当局が元安を容認した格好となり、これは米国側の反発を招きかねない。

 中国が折れない限り、米国が無理強いを納めない限り、交渉が進展することはなさそう。中国側としても容易に妥協することはできない。そうであれば、米中の貿易交渉は平行線を辿ることになる。米国経済そのものへの悪影響も懸念される。このため、トランプ大統領は年末商戦をにらみ、個人消費への悪影響を抑えるためとして全ての中国製品に制裁関税を課す第4弾について、一部品目の発動を12月に先送りすると発表した。

 米国と中国はお互いに引くに引けない状況となりつつあり、これがどのような結果をもたらすのか、かなり注意が必要となる。そして、その火種ともなりそうなものに香港がある。

 香港の航空当局は12日、香港国際空港を発着する全便の欠航を決めた。「逃亡犯条例」の改正案を巡る大規模抗議活動による混乱を理由としたようだが、中国民用航空局は9日に香港のキャセイパシフィック航空に対し、「逃亡犯条例」改正案に反対し、香港政府に対する抗議活動に加わった全職員について、中国本土での航空業務に携わることを禁止すると通告していた。香港に対して中国からの干渉が今後さらに強まる懸念があり、それに対する香港の反発が強まることも予想される。

 そして、アルゼンチンというあらたな要因が加わった。アルゼンチン大統領選の予備選挙で現職のマクリ大統領がポピュリストの野党候補に予想外の大差をつけられ2位となった。これを受けて、アルゼンチン・ペソやアルゼンチンの国債が急落したのである。アルゼンチンの経済政策がマクリ大統領の進めてきた市場寄りの政策から離れ、通貨や資本の統制といった措置への回帰を探る可能性も指摘されていた。

 イタリアでは、与党極右「同盟」が連立相手の左派「五つ星運動」と予算やインフラ政策で意見が対立し、内閣不信任案を出した。こちらはポピュリズム政権が崩壊の瀬戸際に立たされている格好となり、10月に総選挙もとの観測も出ている。これもリスク要因となり、イタリアの10年債利回りは9日に1.80%と前日の1.53%から大きく上昇していた。しかし、フィッチが9日、イタリアのソブリン格付けを「BBB」、見通しを「ネガティブ」で据え置いたことから、いったん安心買いが入り、12日のイタリアの10年債利回りは1.70%に低下した。とはいえ、イタリアの政局の行方もリスク要因となりつつある。

 日本では韓国との関係悪化という問題も抱えている。その韓国では通貨のウォンや株価が大きく下げている。

 これらのリスク要因が今後、市場にどのように働きかけるのか。少なくとも当面はリスク回避の動きが続くであろうことが予想される。そうなると余計に中央銀行の緩和策への期待も強まることになろうが、その緩和カードにも限界があろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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