次期ECB総裁に指名されたラガルドIMF専務理事への期待
欧州連合(EU)は2日ブリュッセルで開いた臨時首脳会議で、欧州中央銀行(ECB)総裁にフランスのクリスティーヌ・ラガルド国際通貨基金(IMF)専務理事、EUトップの欧州委員長にドイツのウルズラ・フォンデアライエン国防相を指名した(3日付日経新聞)。
6月30日夜から3日間続いたマラソン協議の末、欧州トップ人事がようやく決着したともされたが、どうもその落としどころは事前に決定していたのではないかとの見方もある。実際にドイツのメルケル首相はドイツ出身者をECB総裁ではなく、欧州委員長に充てたい意向を示していた。
結果として、メルケル首相の意向通りに欧州委員長にはドイツ出身者でメルケル首相を支えてきた人物を充てることができた。これに対してユンケル欧州委員長(ルクセンブルク出身)は自らの後任候補にフォンデアライエン独国防相が指名されたことについて、決定の過程が透明ではなかったと指摘した。3日間続いたマラソン協議では、独仏以外の国を納得させられるかが課題になった可能性もある。密室で決められたとの観測もあって欧州委員長の決定に必要な議会の承認には不透明な面も残っているとされる。
メルケル首相の意向が欧州委員長に反映されたとすれば、ECB総裁についてはマクロン大統領の意向が反映されたと思われる。しかし、それがまだ任期途中であり、その功績も評価されているラガルドIMF専務理事に白羽の矢が立つことは予想できなかった。
各国の中央銀行を跨ぐ格好となっているECBの総裁に、中央銀行での勤務経験がない人物が起用されて問題はないのかとの見方もあった。しかし、これについては例えば日本の中央銀行総裁人事をみても問題はないように思われる。現在の黒田総裁は財務省出身である。ちなみにラガルド氏もIMF専務理事の前はフランスの財務大臣であった。
フランスのマクロン大統領としては、2つの重要ポストに女性を充てることもひとつの目的とされたが、それとともにドイツのバイトマン連銀総裁などドイツ出身者をECB総裁に充てることは避けたかった可能性もある。現在のECBの緩和的なスタンスを継続してほしいとの意向もあったとみられ、その意味ではこれまでのECBの緩和策を評価してきたラガルドIMF専務理事は実績、知名度、さらにメルケル首相との関係も考慮すると最適としたのではなかろうか。
市場ではラガルドIMF専務理事のECB総裁の指名を受けて、ECBの現在の緩和路線が継続されるとの見方から、欧州の国債利回りは一段と低下した。ただし、注意すべきは現在のドラギ総裁がより緩和に前向きであったのに比べ、フランス出身のラガルド氏は比較的冷静に見てくるのではないかということである。また、IMF専務理事として日本を含めてG7なども通じて財務大臣や中央銀行総裁との人的交流もかなりあるとみられ、その経験が生かされる可能性も当然ある。