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世界的な長期金利の低下の要因と2016年7月の金利低下時との類似性

久保田博幸金融アナリスト
(写真:角倉武/アフロ)

 6月21日に日本の10年債の利回りはマイナス0.195%まで低下し、日銀の誘導目標の下限とされるマイナス0.2%に接近した。債券先物は154円13銭まで上昇し、中心限月としては過去最高値を更新した。

 それまでの債券先物の最高値は2016年7月27日の引け後のナイトセッションでつけた154円01銭であった。

 6月21日の債券先物の高値更新は、先物主体の仕掛け的な動きともみられていた。そのきっかけには20日の日銀の金融政策決定会合後の会見で、黒田総裁が長期金利の変動容認幅について、過度に厳格に捉える必要はないと発言し、長期金利が変動容認幅の下限マイナス0.2%を下回っても日銀は容認かとの思惑が広がったこともあった。

 2016年7月6日に日本の20年国債の利回りは初めてのマイナスとなった。10年国債の利回りもマイナス0.285%と過去最低を更新した。この金利の低下は日本だけの現象ではなかった。6日の米国債券市場で米10年債利回りは一時1.31%台をつけ過去最低を更新し、ドイツの10年債利回りはマイナス0.2%台をつけた。

 今回と比較してみると日本の20年債利回りはプラスの0.2%近辺となっており、マイナスにはなってはいない。10年債利回りもマイナス0.195%までとなっていた。そして米国の10年債利回りは低下していたものの2%近辺となっている。ただし、ドイツの10年債利回りはマイナス0.3%台となるなど欧州の国債利回りは過去最低を更新しているところがある。

 2016年7月と今回の長期金利の低下は、欧米の金利低下を受けてのものといえる。2016年7月の世界的金利低下のきっかけは、6月23日の英国の国民投票でEU離脱が決まったことによるリスク回避の動きがあった。しかし、2016年は年初から株価が急落するなど、中国を主体とした景気の減速懸念や物価の低迷などがすでにあった。これに対し、今回の日米欧の金利低下の背景としては、米国の中国の貿易摩擦の拡大などによる景況感の悪化があり、それを背景としたFRBなどの利下げ観測があった。

 2016年といえば1月に日銀はマイナス金利政策を導入し、9月に長短金利操作付き量的・質的金融緩和を決定した。これにより金融緩和による副作用も問題視されるようになっていった。

 今回も日本では市場が日銀に追加緩和を催促しているような状況になっている。FRBが利下げするようなことになると円高となる可能性もあり、日銀としては為替の動きが気になるだろうが、ここは2016年の教訓を生かして、動かないという選択肢を採ることもありかと思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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