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米国の物価指標を受けた利下げ観測の背景とは

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 「市場は常に正しい」というのが私の持論である。ただし、市場が先行きの経済、物価の動向を正しく読んでいるとか、適切なリスクに対応して動いているということではない。正しく市場参加者の予想、思惑、懸念を反映しているという意味で市場は常に正しいとしている。

 米労働省が12日発表した5月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比1.8%上昇した。伸び率は前月から0.2ポイント縮小し、市場予測をやや下回った。一方、変動の激しいエネルギーと食品を除いたコア指数は2.0%上昇し、伸び率は0.1ポイント縮小した。

 FRBの物価目標は日銀と違って消費者物価指数ではなく、PCEデフレーターと呼ばれるものではあるものの、それでも消費者物価指数でも2%という水準が意識されている。

 ただし、中央銀行が掲げた物価目標は常に達成しなければいけないものではない。2%を超えたら金融引き締め、2%を下回ったら金融緩和となるというように常に金融政策の軌道修正を行う必要があるというわけではない。

 今回の米国の消費者物価指数の発表を受けて、通常であれば予想をやや下回ったが2%近辺におり、物価は落ち着いて推移している、となるはずである。しかし、これを受けた米国の債券市場では将来のFRBの利下げの根拠になるとして米債は買い進まれたのである。

 わずかな前年比上昇率の鈍化で、FRBが利下げに動くことは考えづらい。しかし、それでも市場が反応してしまうのは、FRBへの利下げへの期待が強く形成されてしまっているためと言えよう。市場での思惑が細かい指標の動きにも過剰に反応してしまうというひとつの事例となる。

 FRBの2%という物価目標は絶対的な目標ではない。日銀が以前に使っていたがいわゆる2%近傍ということになろう。2%近辺にあれば物価は予想水準で安定しているということになり、今回の米CPIはその水準内にあり、FRBが驚くようなものではなかったはずである。

 ただし、ひとつ注意すべきものもあった。この日の原油先物価格の動きである。米国の原油在庫が2017年7月以来の高水準に膨らんだことが嫌気され、12日の原油先物は大幅下落となり、WTI先物7月限は2.13ドル安の51.14ドルとなっていた。2ドルもの下落は原油先物にあっては急落と言っても良い。原油価格が下がれば物価にも当然影響を与える。

 市場は単一の材料だけで動くわけでは当然ないため、今回のこの原油先物価格の動きをみて、もしこのままWTIが50ドルを大きく割り込むようなことになれば、物価への下方圧力となるとの見方も出ていたのかもしれない。そもそも原油在庫の減少の要因が、米中貿易摩擦拡大による米国内の景気減速を示唆しているという読みとなっていれば、それによってFRBの利下げの可能性が強まったとの見方も出ていた可能性はある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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