過度のリスク回避姿勢や中央銀行への過剰な期待も禁物か

(写真:ロイター/アフロ)

 セントルイス地区連銀のブラード総裁は3日、中国やメキシコなどとの貿易問題が長期化の様相を呈する中、世界の貿易に関する見通しは悪化したとし、近い将来の利下げを支持する根拠になっていると語った(ロイター)。

 ブラード総裁に指摘されるまでもなく、市場では世界経済への影響が意識されてリスク回避の動きを強めることとなった。米国だけでなく欧州や東京を含めたアジアの株式市場は下落し、米国とメキシコは産油国でもあり原油先物価格にも影響を与えた。そしてリスク回避の動きにより、欧米の国債利回りが低下した。米10年債利回りは節目とされた2%も視野に入ってきた。これに対してFRBの政策金利は2.5%となっていることで、米国の長短金利差は拡大した。

 これはある意味、市場がFRBの利下げを促しているかにも思える。年内2回程度の利下げも金利先物市場に織り込まれている。

 ただし、注意すべきはあくまでまだ「懸念」で動いているだけで、足元の経済指標は7日の米雇用統計など含めて、予想を下回るものも出ているが、景気減速が目に見えてきているものではない。しかも今回の景気減速懸念の発端はトランプ政権にあり、トランプ政権が舵取りを変えるとなれば、その懸念が急速に後退しかねないものでもある。

 今回のリスク回避の動きは実体経済や物価によるものではなく、何かしらのテールリスクが起きたわけでもない。それにしては米10年債利回が大きく低下し、ドイツの10年債利回が過去最低を記録するなど、やや過剰に反応しているようにもみえなくもない。このため、きっかけ次第ではリスク回避の反動を強めることも予想される。

 6月は大阪でのG20も予定されている。過度な期待も禁物ながらも過度の懸念もリスクがある。もしディーラーであれば、ここはポジションを軽くして、状況変化に応じて臨機応変にフットワークで勝負したいところである。値動きがかなりありそうなのは確かであろう。

 そして、6日に開催されたECBの政策理事会では、主要政策金利は据え置かれた。そして、金利ガイダンスを変更し、現在の政策金利の据え置きの期間を、従来の最低年末までから「最低2020年上半期にかけて」に延長した。利上げを待つ期間を今年末までとしていたのを、来年半ばまでと半年先延ばしした格好となった。

 この理由として、英国の欧州連合(EU)離脱を巡る先行き不透明性のほか、一部の新興国の脆弱性を巡る不確実性に加え、世界的な貿易の伸びを巡る先行き不透明性は、3月時点のわれわれの予想を超えて増大したためと、ドラギ総裁は会見で説明した。

 あわせて公表された最新の経済予測では、2020年のユーロ圏経済成長率予想は1.4%と3月時点の予測の1.6%から下方修正され、インフレ率の見通しも2019年が1.3%、2020年が1.4%、2021年が1.6%とこちらも下方修正された。

 TLTOLの第三弾は9月に開始され、当初はリファイナンスオペの最低応札金利(0%)に0.1ポイント上乗せの金利で提供されることになった。

 これらに対する市場の反応をみると、踏み込み不足との認識のようであった。ドラギ総裁は会合では数人の委員が利下げや量的緩和(QE)再開の可能性を提起したと発言していたが、市場は利下げを示唆するなど緩和策に向けた動きに期待していたようである。

 これについてはFRBに対しても同様であり、市場はFRBによる利下げを織り込みはじめている。6月18日、19日に開催されるFOMCを含めて、「予防的措置」としてのFRBによる利下げを市場では期待している。

 これまでFRBは世界的なリスクの後退とそれによる経済の回復基調をみて、異常な金融緩和からの正常化に向けて調整を行ってきた。ECBも異常な緩和策からブレーキを掛けようとしており、そのための利上げのタイミングを探っていた。しかし、タイミング悪く、それを先送りし続けている格好となっている。

 インドなどが利下げを行っているように、世界的に景気が減速しつつあり、米中の貿易摩擦によってさらに減速傾向が強まるとの見方が広がっていることも確かである。しかし、そのリスクが顕在化しているわけではなく、現状は今回のECBのように正常化に向けた動きにブレーキを掛けることで今後の動向を見守る姿勢も必要であろう。

 市場は市況が悪化すると中央銀行の金融緩和へ過剰な期待を抱きがちだが、中央銀行はサービス精神を発揮してそれに常に答えてしまうと、貴重な緩和策の切り札がすぐに失われる可能性もある。市場が失望して過剰反応を示そうが、緩和しなかったことによる反応も結局、一時的となり、すぐに違う材料に目が行く可能性もある。金融政策にとって市場も大事だが、そればかりをみて政策を決定しているわけではないこともはっきりと示す必要もあろう。

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

有料ニュースの定期購読

牛さん熊さんの本日の債券サンプル記事
月額1,100円(初月無料)
月20回程度
「牛さん熊さんの本日の債券」では毎営業日の朝と引け後に、当日の債券市場を中心とした金融市場の動きを牛さんと熊さんの会話形式にてお伝えします。昼には金融に絡んだコラムも配信します。国債を中心とした債券のこと、日銀の動きなど、市場関係者のみならず、個人投資家の方、金融に関心ある一般の方からも、さらっと読めてしっかりわかるとの評判をいただいております。

Facebookコメント

表示

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。