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世界的に金融市場でリスク回避と呼ばれる動きを強めた理由、そして「公定歩合が高すぎる」が再来?

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 米国と中国との貿易戦争の激化に加え、メキシコとの移民問題にライトハイザーUSTR代表の反対などを押し切って「関税」という武器をトランプ大統領は使ってきた。米中の問題は特にハイテク製品への影響が大きいとみられるが、米国とメキシコとなると自動車産業に大きな影響を与えかねず、さらには両国とも原産国であり、原油価格の動向にも影響を与えてくる可能性がある。

 これを受けて世界的に金融市場ではリスク回避と呼ばれる動きを強めた。ただし、リスク回避といっても状況次第でその動きは当然変わってくる。このため、今回はどのようなシナリオを市場が抱いているのかを探ってみたい。

 今回の米中の貿易摩擦によって、中国の景気減速がまず意識された。米国経済にもマイナスの影響を与えかねないとの見方も加わり、米国株式市場が大きく下落した。上海株価指数など中国の株式市場も下落し、欧州の株式市場そして東京株式市場も下落した。

 リスク回避の動きは安全性が高いとされる国債には買いとなる。特に米国やドイツ、英国の国債が買い進まれることが多い。今回は特に米国債が買われ、ドイツの10年債利回りも過去最低を記録した。

 これに対しイタリアなど欧州の周辺国に関しては、リスク回避の要因にもよるが、過去は売られる場合もあった。たとえば欧州の信用リスク問題が生じた際には、ドイツなど中核国の国債が買われ、イタリアなど周辺国の国債は売られた。しかし、今回のリスク回避の動きでは、周辺国も買い進まれており、スペイン、ポルトガル、そしてギリシャの10年債利回りまで過去最低水準を更新している。これは周辺国内のリスクよりも景気後退なども意識した動き、さらにすでにマイナス金利となっているドイツ国債よりも利回りの高い国債に買いが及んだともいえるのではなかろうか。

 これは日本国債も同様であり、すでに10年債利回りもマイナスとなり、買いはプラスの利回りのついている超長期債主体に向かったが、イールドカーブのフラット化が行き過ぎると買い方も慎重とならざるを得ない。このため、欧米の国債利回りの低下のピッチに比べて日本国債の利回り低下は緩やかなものとなっている。

 米国債が買い進まれている背景にはFRBの利下げ観測もある。すでに米長期金利が政策金利を下回っている状況にある。大昔、日本の債券のバブル時代、当時の大手証券の債券のチーフディーラーが「公定歩合が高すぎる」という名言?を残したが、まさに現在の米国は市場参加者が政策金利が高すぎると言っているようにも思える。

 原油価格の動向にも注意が必要となる。金などと同様に原油価格もリスクに敏感とされている。特に今回は産油国のメキシコが絡むことで、WTIなど大きく売られており、調整局面入りしていることも注意したい。

 リスク回避によって外為市場がどう動くのかも、シナリオ次第となる。リスク回避となれば、ドルや円、スイスフランなどが買われやすくなる。今回はドルと円のリスク感応度が均衡しあって、途中までは方向感に乏しくなっていた。しかしここにきて米国の利下げ期待も手伝って、米長期金利低下に焦点があたり、日米の金利差が意識されてのドル円の下落となってきている。

 これらのリスク回避の動きはポジション調整的なものも当然あるが、それを仕掛けているむきも当然あろう。ポジションが偏ったあとの反動も大きいことも注意する必要がある。念のため、1987年の「公定歩合が高すぎる」という名言のあと日本の債券市場はいわゆるバブル崩壊を迎えることになり、円債のディーリング相場が終焉した。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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