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ファーウェイ制裁で米中の通商交渉もブレーキ、世界経済の先行きが不透明に

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 22日に米議会下院の委員会に出席したムニューシン財務長官は、貿易交渉の現状について、「残念ながら中国側は大きく後退している。今なお、お互いが交渉のテーブルに戻ることを期待している」と述べ、交渉を継続していく姿勢を示した(NHK)。

 中国側は中国の通信機器大手、ファーウェイと米国企業との取り引きをトランプ政権が禁止したことを受けて、さらに反発しているとされるが、当然であろう。

 22日の米国株式市場ではアップルが売られたが、ゴールドマン・サックスのアナリストが、アップルの中国販売が禁止された場合に1株利益が約3割減ると指摘したことが売りを誘ったとされている(日経新聞)。

 米中の政府間同士の駆け引きのはずが、相手にブラフを掛けようと本来、切ってはいけないカードをトランプ政権は切ってしまったと思われる。

 現在の世界を覆っているハイテク社会の基盤は米国と中国が握っているといっても良いのではなかろうか。もちろん日本や欧州などの国も大きな役割を演じてはいるが、米中の相互依存の関係で築き上げられているといっても良いのではなかろうか。

 その米中が関税だけでなく、お互いの製品に対する制限を課すとなれば、相手国を叩くだけに止まらず、いわゆるコラテラル・ダメージによって自国企業に悪影響をもたらす可能性がある。コラテラル・ダメージとは直訳すると「副次的な被害」となるが、「政治的にやむを得ない犠牲」というニュアンスを含むようである。

 中国が自国内でのアップルの製品販売に制限を課すようなこととなれば、アップルの利益が減少するとともに、中国での生産を縮小するなどの懸念も出てくることで、中国国内の雇用がその分、失われることにもなろう。

 ハイテク分野での共存の関係から覇権争いとなってしまったことで、米中の通商交渉については、そう簡単に進むことが考えづらくなってきた。この時期に閣僚級会議も開催できないとなれば、来月末の大阪でのG20サミットでのトップ同士の話し合いで簡単に解決できるものではなかろう。米中の意地の張り合いが世界経済の先行きを不透明にさせかねない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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