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日本でも高額紙幣となる1万円札を廃止すべきか、インドの事例も参考に

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 日本でも高額紙幣となる1万円札を廃止すべきとの意見がある。現金はマネーローンダリングに使われ、脱税としても利用されている。特に日本では現金の流通量が多いことから、1万円札を廃止することにより、脱税を阻止するとともに、キャッシュレス化を進められるとの意見である。

 これについては良い例が存在している。インドで2016年11月、ブラックマネー(不正蓄財)をあぶり出すとして、モディ政権が突然、高額紙幣の廃止を宣言したのである。廃止されたのは、当時の最高額紙幣だった1千ルピー(約1600円)札と500ルピー(約800円)札で、現金全体の86%に当たる15兆4千億ルピー(約24兆円)に上った。

 それから2年以上経過しており、その効果というか影響についてもすでに明らかとなっている。

 インドでの高額紙幣の廃止は、かなりの社会混乱を招いたことは確かであり、インド経済にも悪影響が出たとされる。しかし、これをきっかけに一時的ながらキャッシュレス化が進行したことも確かなようである。

 インド準備銀行(中央銀行)が発表した報告書によれば、紙幣廃止で金融機関に持ち込まれた旧紙幣は15兆2800億ルピー(約26兆3千億円)に達したが、これは流通量の99.8%に相当するそうである。少なくとも3兆ルピーが表に出ることなく破棄されると見込まれていただけに、不正資金の撲滅とはほど遠い結果となったとされている。(2018年8月の朝日新聞より)。

 高額紙幣廃止の政策が電子マネーの普及、キャッシュレス化に貢献したとされてはいるが、一時的な現金の待避先となったようで、インドの現金の流通量はその後、徐々に回復してきている。現地ではいまだ現金決済が普通に行われているようで、高額紙幣の廃止で一気にキャッシュレス化となったわけではないようである。

 インドの高額紙幣の廃止は、当初の目的となったブラックマネーのあぶり出しやキャッシュレス化の促進には、それほど寄与していなかった。また、景気そのものも悪化させた。

 もし日本で1万円札の廃止を行えば、インド以上の混乱を招く可能性がある。結果としてタンス預金が通常の銀行預金に置き換わるだけとなることも予想される。これでキャッシュレス化が一気に進むことも考えづらい。タンス預金が銀行預金に置き換われば、個人資産が可視化されて徴税が容易になる可能性はあるが、そのためだけに1万円札を廃止するというのは、ややリスクが大きすぎるように思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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