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FRBの金融政策の迷走、必要だったのは柔軟性では?

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 今年1月30日のFOMCでは金融政策の現状維持を決定したが、声明文では、緩やかな利上げが適切だという文言を削除して、今後は辛抱強く対応するという文言に変え、利上げ停止を示唆した。パウエル議長は会見で、保有資産の縮小についても減速を示唆した。

 昨年12月19日のFOMC後の記者会見において、FRBのパウエル議長はバランスシートの縮小に関する質問に対して次のように答えていた。

 「私たちは金融政策の正常化をどのように進めるか注意深く検討し、効果的にバランスシートを正常化させられるように考えてきた。これまでのところ正常化はスムーズで、変更するつもりはない。引き続き金利を金融政策の積極的なツールとして活用していく」

 昨年末にかけての金融市場では、欧州や中国の景気減速を受けての世界的な景気減速懸念から、日米欧の株式市場は下落傾向となり、円高が進行するなどリスク回避の動きを強めた。

 そのような最中にFRBのパウエル議長は「正常化はスムーズで、変更するつもりはない」と言い切ってしまったことにより、一時的にせよリスク回避の動きを加速させてしまった。

 そのようなリスク回避の動きは昨年のクリスマスあたりが底となり、回復基調となってきた。ここにきて米国の代表的な株価指数であるダウ平均は史上最高値に接近している。

 この反発のひとつの要因として、FRBのスタンス変更も挙げられていた。パウエル議長は今年の利上げは停止し、保有資産の縮小についても停止する意向を示した。

 このパウエル議長率いるFRBのスタンス変更は、金融市場の動きに翻弄された結果にも映る。もし、昨年12月のFOMCで正常化に向けた動きに柔軟性を持たせる発言をしていれば、急激にみえたスタンス変更をしなくても済んでいた可能性がある。

 昨年12月には欧州や中国の景気減速は明らかになっており、それが米国経済にどの程度反映するのかは未知数であった。中国の景気減速のひとつの要因ともなっていた米中通商交渉のもつれは先が読めない状況にもあったはずである。もしもパウエル議長が米国経済については雇用を主体に自信を深めていたのなら、それを突き通すことも必要であったかもしれない。しかし、トランプ大統領を相手にその意地を通すと、さらに政府との亀裂も大きくなりかねない。昨年12月のFOMCで必要であったのは、やはり柔軟性、つまり今後の米国の経済動向次第では、正常化のペース配分をいくぶんか修正する可能性があると示唆するだけでもだいぶ状況は違っていたのではなかろうか。

 今年に入りFRBは正常化路線をきっぱり諦めたかのようなスタンスに180度変更したようにみえる。確かに状況次第では大きなスタンス変更は必要だが、結論として米国経済についてはそれほど悪化しないのではとの見方も強まっている。これはFRBが正常化から手を引くからそうなったわけではない。これをみる限り、FRBは後手後手に回り、状況を読み誤ってしまっているようにもみえる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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