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ドラギECB総裁による中銀の独立性への懸念

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は記者会見で、米国を念頭に「他国、特に世界で最も重要な国における中銀の独立性について懸念している」と述べた。また「中銀の独立性がなければ、経済見通しに関する客観的な評価ではなく政治的な助言に沿って金融政策が決定されるとの見方が広がるだろう」と懸念を示した(15日付けロイターの記事より)。

 中央銀行の総裁が、他の国の政治や金融政策について話すのは極めて異例となる。米国のトランプ大統領は自らに近い元実業家と経済評論家の2人をFRBの理事に指名すると表明しているが、これまで出口政策に向けて利上げを続けていたFRBに対する批判も繰り返しており、利下げや量的緩和の再開も求めていた。

 ところで日本の政権は2013年1月に日銀に対し、中央銀行の法改正まで示唆した上で、2%という物価目標やアコードを設定させた。デフレ脱却のためと称して、2013年4月には異次元の緩和策も決定し、財政ファイナンスに近い政策を取らせた。そればかりでなく、金融緩和強化で物価はいとも簡単に動かせるとの理論を持つ、これまでの中銀の政策とは異端とも言える政策を論ずる人を副総裁や審議委員として日銀のボードメンバーに次々に送り込んだ。しかも、その日銀の異端ともいえる大胆な政策は案の定、物価を目標値に押し上げることはなかった。それについてドラギ総裁はどのように考えているのであろうか、聞いてみたい。

 ECBは国を跨いだ中央銀行という性格もあり、政治からは距離を置くかたちで、独立性は維持している格好となっている。

 イングランド銀行についても、物価目標発祥の国ともいえることで、その歴史から、政治との距離は近いようにみえるが、こちらも政治からの独立性は維持している。現在、英国政府そのものが金融政策どころではない状態にあることも確かだが、今後のEU離脱の行方次第では、イングランド銀行も動かざるを得ない場面があるかもしれない。

 いずれにしても、今回のドラギ総裁の発言は米国のトランプ大統領に向けた発言だとは思うが、トランプ大統領は日本政府と日銀の関係を意識しての言動である可能性もありうる。ドラギ総裁が何を言おうが、トランプ大統領も日本の政権もそれで趣向を変えるようなことはしないと思うが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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