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FRBは市場に配慮して資産圧縮計画を凍結か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 ウォール・ストリート・ジャーナルの電子版は25日、米国の中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)が過去の量的緩和で買い入れた米国債など保有資産の圧縮計画を早期に切り上げることを検討していると報じた。29、30日に開催される連邦公開市場委員会(FOMC)で主要な議題になるようである。

 昨年12月19日のFOMC後の記者会見において、パウエル議長はバランスシートの縮小に関する質問に対して次のように答えていた。

 「私たちは金融政策の正常化をどのように進めるか注意深く検討し、効果的にバランスシートを正常化させられるように考えてきた。これまでのところ正常化はスムーズで、変更するつもりはない。引き続き金利を金融政策の積極的なツールとして活用していく」(12月20日付日経新聞電子版)。

 「変更するつもりはない」としていたものをどうやら変更することを検討するようである。現在FRBは4兆5000億ドル(約490兆円)まで膨らんだ保有資産の規模を減らす取り組みを開始しており、現在は毎月500億ドルずつ資産を圧縮している。

 今回、FRBが保有資産の圧縮計画を早期に切り上げることを検討するのは、金融市場でのリスク回避の動きやその背景となっている世界的な景気減速への懸念が要因となっていよう。

 FRBとすれば12月のFOMCでは利上げペースは遅らせることを意識し始めてはいたが、資産の圧縮はいまだ道半ばであり、早期切り上げは検討していなかったようである。しかし、景気や市場の動向もあらためて意識せざるを得なくなっての政策変更の検討かとみられる。

 ただし、これではFRBの姿勢が朝令暮改のように見えてしまう。パウエル議長は足元の株価の動向なども配慮し、12月の会見において、政策金利が主要ツールながらも景気物価動向の行方次第では、いずれ変更する可能性もないけではないとコメントしておいたほうが良かったのかもしれない。

 実際にパウエル議長は上記の会見での発言の前に次の用な発言もしていたのである。

 「2013年から2014年にFRBで働いていた時の経験を踏まえると、市場はバランスシートのサイズや資産購入のペースのニュースにとても敏感だ。」

 何故それを知っていて「変更するつもりはない」と言い切ってしまったのであろうか。たしかに現実問題としてFRBの資産圧縮を早期に切り上げても、それによる実質的な効果はあまり期待はできない。あくまで市場心理に影響を与えることが重要で、中央銀行はマーケットフレンドリーであるとの認識を持たせることも時には必要となる。12月の会見はもう少し市場に配慮すべきではなかったろうか。配慮しすぎるのも問題ではあるが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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