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政府主導の無理矢理なキャッシュレス化促進への違和感

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 来年10月の消費税率10%への引き上げにあわせて「酒類及び外食を除く飲食料品」と「定期購読契約が結ばれた週2回以上発行される新聞」に限り、税率を8%に据え置く「軽減税率」を導入する。その際にキャッシュレス決済で買い物をした人に対してポイントで還元する制度の導入も検討されている。

 「酒類及び外食を除く飲食料品」の区分けの面倒や何故新聞がという疑問はさておき、キャッシュレス決済でのポイント還元というのにも、かなり違和感がある。

 2018年に経済産業省が策定した「キャッシュレス・ビジョン」では、2025年までに「キャッシュレス決済比率」を40%程度とし、将来的には世界最高水準の80%を目指すとしている。

 たぶんこの消費増税に絡んだキャッシュレス決済でのポイント還元もそれを意識したものかと思われる。しかし、これによりキャッシュレス化の利用を大きく拡大させることができるとは思われない。そもそも対象となる中小の小売店でキャッシュレス化の普及を促すには、機器の導入費用などとともに、カード会社などに支払う手数料などの負担が大きいという問題が存在する。

 手数料については3%の上限を設けようとの動きもあるようだが、3%でも負担は大きい。スマホ決済などによるキャッシュレス化において、海外ではそこから得られるデータの利用価値を意識して手数料は抑えられている。キャッシュレス化への普及には利用者にとって現金同様の使い勝手の良さとともに、商店側の負担軽減が大きな課題となる。

 そして、今度は厚生省が企業などがデジタルマネーで給与を従業員に支払えるよう税制を見直す方針を固めたとも伝えられた。これも意図が良くわからない。こちらもキャッシュレス化の促進ありきのように思える。

 海外でのキャッシュレス化拡大の動きの要因のひとつに、銀行口座を持たない層の利用が挙げられている。しかし、日本での給与はほとんど銀行などへの振り込みになっていると思われ、それに対して特に弊害等は感じられない。給与が直接、スマホのアプリに振り込まれるような格好になったとして、果たしてそれを利用するというインセンティブは働くであろうか。

 銀行の口座に現金があるというのは仮にそれがデータ上であろうとかなりの安心感がある。しかし、銀行ではないポイントのような格好でアプリ内にかなりの金額が置かれる事への抵抗感は強いのではなかろうか。私はコンビニの電子マネーに現金をチャージする際には数千円に止めており、1万円をチャージするのにも躊躇してしまう。

 どうもキャッシュレス化促進ありきで、我々のニーズや店側の事情などは置いといて、進められている気がしてならない。キャッシュレス化を進めるには、使う側のインセンティブを引き出す必要があり、ある意味強制的に拡げようとしても無理があろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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