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日銀短観にみる日本経済の現状と先行き

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀が10月1日に発表した9月の全国企業短期経済観測調査(日銀短観)では、ヘッドラインとして注目される大企業製造業DIがプラス19となり、前回6月のプラス21から悪化した。3四半期連続での悪化となり、先行きについてはプラス19と現状維持を見込んでいる。

 全産業でみてみると9月のDIはプラス15となり、6月のプラス16から悪化、先行きについてもプラス13とさらなる悪化を見込んでいる。

 原油先物価格はすでに4年ぶりの水準に上昇しており、この原油高による原材料の価格高騰による影響も出ているようである。さらには西日本豪雨や、台風21号による影響、北海道での地震などの自然災害による影響なども大きいとみられる。また、人手不足による影響もあろう。

 米国と中国を中心とした貿易摩擦への懸念も大きい。日本車を巡り、トランプ政権が検討していた追加関税は、日米が新たに通商協議入りすることで、ひとまず回避されたが懸念は残る。11月の米国の中間選挙に向けてトランプ政権が更に揺さぶりをかけてくる懸念もありうるか。

 ただし、注意すべきは日銀短観での事業計画の前提となっている想定為替レートが2018年度で107円40銭となっている点である。通常でも慎重に、実勢よりは円高においている数字ではあるが、ドル円は10月2日に114円台を回復しており、7円近く想定を上回っている。円安による日本経済への影響は昔ほどは大きくはないにしても、想定以上の円安による好影響を受ける可能性はありうる。

 さらに米国株式市場の動きをみると、米中の貿易摩擦が懸念されているにもかかわらず、上昇トレンドを形成していた。米トランプ政権の保護主義政策については、いまのところ米経済には大きな影響は与えていないとの見立てなのか。日本の企業経営者のほうがやや悲観的に見ているとの見方もできるかもしれない。

 短観の大企業製造業DIと日経平均株価はトレンドの変化が似たようなタイミングで起きることが良くある。しかし、今回は短観の数字と日経平均はトレンドとしては方向が異なっている。米国株式市場の上昇とドル円の上昇などを背景に、日経平均は約27年ぶりにバブル崩壊後の高値を更新した。

 果たして日銀短観の大企業製造業DIと日経平均のトレンドの違いはいずれどのように修正されていくのか。あまり楽観視はいけないかもしれないが、短観の数字がやや慎重すぎるのではないかと個人的には見ているのだが。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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