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異次元緩和への対案、そもそも2%の物価目標はいらない

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 日銀の異次元緩和を批判すると、では対案があるのかという問いが来ることがある。そもそも対案というのは、何かしらに窮している際にそれを解決すべき手段が必要な際に必要とされるものではなかろうか。

 日本でも中央銀行による積極的な金融緩和によって欧米並みの物価水準を達成させることで、国民の生活も豊かになるという発想そのものに間違いはないのであろうか。2%という物価目標を達成すれば、我々の生活は豊かになるのか。

 デフレが良くない。デフレを止めるためには物価を金融政策で欧米並みの2%に引き上げなければならないという理屈にもいくつもの疑問点がある。

 デフレが何故起きたのか。日銀の金融緩和が足りなかったからなのか。そもそもデフレがスタートしたとされる1998年頃の状況をみるとバブル崩壊による金融システム不安による影響が大きく、そこにアジアの通貨危機等も加わるなどしたこと、さらに日本国内の雇用体系の変化などによる影響が大きい。これらは日銀の金融緩和でどうにかなるものではなく、あくまで金融緩和は鎮静剤の役目を果たすぐらいであろう。

 日銀による2000年のゼロ金利解除か早すぎたとの意見もあった。そもそもゼロ金利政策はデフレ防止で行われたものではない。その後のITバブル崩壊を予言できたのであれば、確かに解除に急ぐ必要はなかったかもしれないが、それには予言者が必要になる。

 その後もサブプライムローン問題からリーマン・ショック、さらにギリシャ・ショックからの欧州の信用不安に繋がる。この間に世界的な金融経済危機が起きており、日銀も含め積極的な金融緩和策が講じられた。この際の日銀の緩和規模が足りず、円高が進行したとの見方もある。いやいや、それだけ日本の通貨が信用されていたことで円が買い進まれたとの見方の方が素直な見方ではなかろうか。ただし、その円高も行き過ぎた。

 その反動がアベノミクスによって起きたわけではあるが、世界的な金融経済危機が後退していたタイミングであっただけであり、その円高調整が終了後は現在の為替市場をみてもわかるとおり、落ち着いている。日銀が異常な緩和策を行わなければ円高になってしまうとの意見もあるが、米国の利上げによるドル高もたかが知れていることをみると、一概にそのようなこともいえない。

 物価上昇のため、円高解消のためとして、非常時の対応となるような極端な金融緩和策は必要なのか。そもそも、どのような経路を通じて大胆な緩和策が物価に働きかけるのか。

 アベノミクスが登場したのは、欧州の信用不安の後退時期と重なる。その後の世界経済は米国を主体に回復基調にあり、日本経済も同様で雇用も回復してきた。日本経済の回復は日銀の異次元緩和がなければ起きなかったのか。そのようなことはない。異次元緩和で物価は2%に上がることもなかった。

 債券市場や株式市場に歪みをもたせ、財政ファイナンスに近い政策を行ってまでもいったい何をしたかったのか。代案は何かと問われれば、そもそも2%の物価目標はいらない。通常の金融政策を維持させることで、柔軟な金融政策を行える状況とし、非常時には金融市場を通じて心理的な沈静化を図れるようにする。それがいまの金融政策の在り方ではないかと思う。金融政策は直接、物価や景気に働きかけてそれを動かせるものではない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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